和風パスタとサイゼリヤにイタリア人が夢中!? 日本でおなじみの食の魅力を再発見!

食・料理

公開日:2022/4/1

イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ
『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(マッシミリアーノ・スガイ/KADOKAWA)

「外国人から見た日本」というテーマのコンテンツは、さまざまなメディアでよく見られる。本稿で紹介するのは、私たち日本人になじみ深い、広い意味での「日本食」の素晴らしさを教えてくれる書籍だ。

 それがマッシこと、マッシミリアーノ・スガイ氏が書いた『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)である。その内容は、日本とイタリアの食を単純に比較するものではない。書かれているのは主にB級グルメ、コンビニスイーツ、冷凍食品、日本全国に展開するレストランチェーン、そしてそれらに向ける“愛”である。

 マッシ氏はその“愛”の深さから、さまざまな「日本食」の感動体験や、マッシ流で食べる方法などをWeb記事として発表した。本書はこの記事をもとにしたエッセイ集だ。内容は期待できる。なぜなら記事のひとつ「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」は、なんと95万PVを記録しているからだ。

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イタリア人マッシ氏がぶっとんだ日本グルメはあのチェーン店!

 マッシ氏は日本のチェーン店に恋している。最初に解説するのは氏が推しているチェーン店のグルメだ。イタリアでは、チェーン店=ファストフード=ジャンクフードという感覚が強いそう。いつでもどこでも、同じ味と同じ雰囲気が楽しめるお店があるなんて、考えたことがなく、それができたとしても「人気が出ない」「個人性がない」とまで思っていたマッシ氏。ただ今では彼は大好きになっているそうだ。ここでは代表的な2つのお店を紹介する。

カレーハウスCoCo壱番屋

 イタリアにはカレーのような料理はないそうで、マッシ氏は日本に来るまで存在も知らなかった。だが今ではイタリアに一時帰国の際、レトルトカレーを持っていってまで食べているそう。もう熱々のカレーがない人生は考えられないマッシ氏が愛する「ココイチ」は、メニューが豊富“すぎる”のが魅力。「選びきれない」「トッピングの種類が多すぎて決められそうにない」とうれしい悲鳴。

 これには日本人でもそうだよ、と同意したい。マッシ氏は迷った末に出されたカレーをひとしきり見てからこうつぶやく。

感動の余韻に浸りながら、白米と辛いカレーに揚げ物を乗せる。「幸せマウンテン」の出来上がりだ。

 この文を読んだだけで湯気のたつ「ココイチ」の山盛りカレーが頭に浮かび、お腹が鳴る。

サイゼリヤ

 マッシ氏の食事をカスタマイズするスキルは半端ないのだが、それはイタリア人特有なのだそうだ。サイゼリヤに行く方ならご存じだと思うが、お店にはオリーブオイルにチーズ、胡椒、塩と、自由に使える調味料が置いてある。これはまさにイタリア式で、元々よくできているメニューだと認めつつもマッシ氏は、母国にいるようにカスタマイズしてから味わう。ここでそのレシピのひとつを紹介する。

トマト系のパスタにたっぷりのチーズとオリーブオイルをかけて、まぜまぜしてから、もう一度チーズをかけて、さらに軽く混ぜたら最高の味が完成する。

 単純なようだが、だまされたと思って試してみてほしい。私は「パルマ風スパゲッティ」でこの通りにしたところ、おいしすぎて今まで知らなかったのを後悔した。完全に別物になるコロンブスの卵的なアレンジと言える。他にもフィセル(細長いパン)に、サラミを挟んだレシピや、ピザにポテトをのせて塩とオリーブオイルを垂らしてから折って挟み込む食べ方を試したが、どれも衝撃的なおいしさになった。一緒にサイゼリヤに行った家族にもふるまったが、大いに感動していた。

違いを受け入れ、違いに恋をして、楽しく充実した毎日を過ごす方法とは?

 ここでは紹介しきれないが、本書は他のチェーン店はもちろん、和食、メロンパン、日本風パスタ、さらにマッシ氏の大好きな甘いもの……例えばコンビニスイーツなども取り上げている。言ってみれば“大盛り”書籍なのだ。

 各章で繰り返し書かれるのが、マッシ氏の変化だ。最初はびっくりし、がんばって食べてみて、その味のとりこになっていった。おでんに驚いて食べられなかったマッシ氏はおでんを食べないと元気が出ないマッシ氏になり、いつの間にかお米の産地や炊き方を気にするようにもなっている。

 彼はイタリア人が自国以外のエスプレッソを認めず、カルチャーショックと言うより、カルチャーのシャッターが閉めてしまうことを憂いている。マッシ氏の本業は通訳なので、「通訳者として言葉の通訳よりも、文化の通訳の方がいっそう難しいときもある」そうだ。

 マッシ氏の言葉を借りると、人間が楽しく充実した毎日を送るのに重要なのは、「違いを受け入れる」ことなのだ。

 また本書を読んでいていいな、と思ったのはマッシ氏独特の表現だ。「パンを一口食べた。その瞬間、僕の背中から天使の羽が生えてきた」「ごはんは定食の太陽になる」「故郷にあった豆は日本であんこに進化して、僕にとってスーパーヒーローになった」「僕はメロンパンと恋に落ちたのだろう」などなど、枚挙に暇がない。彼が本当に「日本食」を味わって“ぶっとんだ”のだと分かり、笑顔になる。そして自分も食べたくなる。

 最後に本書をマッシ風の感動表現で紹介して締めよう。

『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』は最高だ。読むと背中から翼が生えてくる。空を飛んで今すぐお店に行きたくなるのだ。私には本書は大切な存在で、本書のことを考えると元気が出る。おそらく、僕はこの本に恋したのである。

文=古林恭

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