映画、放送、音楽、スポーツ……エンタメビジネスを横断的に見ることで気づく、「2031年のエンタメ」のあり方

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公開日:2022/4/5

エンタメの未来2031
『エンタメの未来2031』(北谷賢司/日経BP)

 誰しも、自分が好きなエンタメジャンルがある。そこで起きている出来事や変化についてはなんとなくは知っている。けれども、隣接ジャンルのエンタメ動向までわざわざフォローしている人はなかなかいない。だが横断的に見ることで、「実はあれとあれがつながっていた」とか「そういうことだったのか」ということがわかってくる。

 エイベックス国際ホールディングス社長などを経て米ワシントン州立大学レスター・スミス栄誉教授などを務める北谷賢司氏による『エンタメの未来2031』(日経BP)は、そういう本だ。映画、放送、音楽、ポッドキャスト、スポーツ、演劇(ミュージカル)などのビジネスの変容を追い、メタバースやNFT(非代替性トークン)、スマートシティとどう関わっているのか、どう関わっていくのかを記述している。

 たとえばスポーツビジネスと言っても、「アマゾンがNFLのライブストリーミング中継の配信権を独占したのは、スポーツはリアルタイム性が重要かつその時間は絶対に客が取れるからだ」という話もあれば、NFTを使ったトレーディングカードが勃興している話、はたまたeスポーツの話題、日本とアメリカの野球ビジネスの比較もある。

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 筆者は演劇方面には疎いが、だからこそ、ブロードウェイではチケット代が高額な上に劇場の席数が決まっているミュージカルをAppleTVやNetflixで配信することに力を入れているとか、実は配信で観た人が劇場で観たいと思う効果が高いとか、近いうちにVRヘッドセットを付けて他の観客と一緒にリモートで観劇することができるだろう、といった話をおもしろく読んだ。

 もちろん、知っていると思っているジャンルについても、整理されることで改めて気付くこともあった。たとえばBTSなどを擁するHYBEが目指しているのは大型芸能事務所化ではなくプラットフォーマー化することだ、といった指摘だ。たしかにファンコミュニティWeverseを手がけ、NAVERからライブ配信サービスV LIVEを買収し……といった一連の動きを見ていくと、自前でファンとつながる部分のサービスを押さえにいっていることは明白だ。もともとHYBEは弱小事務所だった時代に韓国のTV番組(音楽番組)で良い扱いを得られておらず、SNSに力を入れて成功した事務所として知られていた。その手法が発展すると、既存のマスメディアやレコード会社、ライブプロモーターなどが担っていた部分を切り崩すようにして、外部のコントロールや干渉なしでファンと情報や商品、サービスを直でやりとりできる部分を限りなく巨大化させていくことになるんだな、という発見が同書を通じてあった。

 AEG社(アンシュッツ・エンターテインメント・グループ)はロサンゼルス、ロンドン、ベルリンなどで大規模なED(エンターテインメント・ディストリクト、エンタメ街)の構築を手掛けてきたが、これがさらに発展すると多目的アリーナや劇場、ホテル、博物館、シネコン、コンベンション施設、オフィスビルを整備したあとに分譲・賃貸住宅を提供することで、新たなエンタメ都市ができあがるだろう、と北谷氏は解説している。すでに一部のスマートスタジアムで実現している、混雑を回避しながら最短時間で目的地にたどり着けるナビ機能、順番を待たずに顔パスで利用できる人気コンテンツ、人流をITを使って誘導することが都市全体で実装されるかもしれない、といったビジョンには、心躍るものがある。

 2030年にはコロナ禍や戦争は終わり、そういう場所を気兼ねなく観光し、思う存分楽しめるようになっていることを祈りたいが、ともあれそんな未来を作る一助になる一冊だ。

文=飯田一史

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