物言えぬ金庫破り──その激しいドラマに酔え!

小説・エッセイ

2012/11/4

解錠師

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:スティーヴ・ハミルトン 価格:918円

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主人公は金庫破りの天才だ。17歳の彼は相手別に色分けされたポケットベルの指令を受け、現場に行き、そこにある金庫を開ける。誰の持ち物なのか、中身をどうするのか、そんなことに興味はない。ただ、開ける。どんなに手強い金庫でも。愛でるように、慈しむように。黙々と。

本書は、刑務所に収監されて10年になる主人公マイクルが、自分の過去を語るという形式をとっている。いや、語る、と書いたが喋るわけではない。なぜなら彼は幼い頃に巻き込まれた大事件がきっかけで声が出なくなってしまったのだから。彼が語る過去は、その事件のあとで伯父に引き取られた8歳から恋を知る高校時代までと、その後の「金庫破り請負屋」つまり解錠師としての日々の二層構造だ。そのふたつの回想がクロスしながら物語は進む。

圧巻なのは、解錠の描写である。開けられないように作られた金庫の鍵を、マイクルはどのように開けるのか。その鍵のタイプごとに異なる、緻密にして具体的な描写。これを読めば自分も金庫が開けられるんじゃないかとすら思えてしまうほどだ。しかも、犯罪の一行程であるにもかかわらず、彼の解錠場面はそこに彼と金庫しか存在しないような錯覚に囚われる。極めて崇高な、プロフェッショナルの物語と言っていい。職人技の物語が堪能できる。

同時に高校時代の恋愛模様は、可愛らしくて切なくて痛々しくて、これぞ青春小説。声のでないマイクルが、恋の相手とコミュニケーションをとる方法が最高にロマンティック。けれどそのロマンティックな方法で、彼は後に彼女に辛い物語を伝えることになる。胸を突くような、喉が詰まるような、本書のクライマックスだ。不器用な恋と、器用な解錠。このふたつが濃密にクロスし、分ちがたく1本のドラマになる。

アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞や英国推理作家教会スティール・ダガー賞を受賞。年間ベスト級の傑作である。読み始めたら止まらない。犯罪小説、ハードボイルド、恋愛小説、青春小説、職人小説──そのすべての魅力がここにある。


本書を代表する名言。「金庫にふれるときは、それを女だと思え」 気になる箇所にはマーカーを引けば、それがそのまま栞になる