「民俗学」はこんなに面白い! 古きよき日本の文化を探し求める、大学生たちの不思議なキャンパスライフ

マンガ

公開日:2022/5/14

こまったやつら
『こまったやつら ~民俗学研究会へようこそ~ 1』(吉川景都/少年画報社)

 科学技術は日進月歩、今や一般人が宇宙旅行にまで行ってしまおうという時代。一方で日本は伝統や分化の面で、旧き日本の姿を現在も大切にし継承しているとはいえ、多くの文化や習俗が、時代の流れと共に生まれては消えていくことは、長い歴史の中では、ある意味で仕方のないことである。そんな文化などを研究したり保存したりする学問が「民俗学」だ。『こまったやつら ~民俗学研究会へようこそ~ 1』(吉川景都/少年画報社)は、ひとりの大学生を通じて民俗学の面白さを教えてくれる「民俗学啓蒙」漫画である。

 本作の時代は1989年──バブル景気華やかなりし時期で、昭和から平成へと変わった年。主人公の桑子順(くわこ じゅん)はよく分からないモノが見える体質であった。それは「古いものによくくっついていて、ひどく陽気でよく喋る」小さな存在であり、出たり消えたりしている。実家に憑いている幽霊かと思い、桑子は都会のS大学に進学するのだが、その小さいモノは彼にくっついてきてしまった。それらのせいで地元では変人扱いだった桑子は、実家さえ離れれば彼らと別れて心機一転、都会での充実ライフを過ごせるはず……! とロードマップまできちんと作成していたのだが、計画は最初から崩壊。しかしその見える体質のおかげで櫻井安慈という奇妙な先輩と縁ができ、彼の所属する「民俗学研究会」、略して「民研」に体験入会することになるのであった。

 ひとくちに「民研」といっても、その活動は幅広い。たとえば桑子が最初に見せられた「津野山神楽」は高知県梼原で五穀豊穣を祈って舞われる神楽。そういう日本の風習を集めたり調べたりはもちろん、参加したりするのも活動の一環だ。そして「八百万の神」の話を聞いたとき、桑子はふいに思った。あの小さなモノは「小っちゃい神様」みたいなモノなのかも──と。だからきっと、神楽を見た「神様」は普段よりも背が伸びて、とても楽しそうにしていたのだ。そして桑子は民研のある「九尾寮」が、居心地の良い場所であることに気がつく。

advertisement

 また民研では「口承文芸」の研究も行なわれる。新入生歓迎の一環として始まった「百物語」。一般には怖い話を語っていく集いだが、怖い話だけではなく不思議な話や因縁話でもよいとする説もあるという。そして口承文芸には「型」があり、地方によってそれぞれ独自の伝承となっている。たとえば桑子の幼馴染である永見勇気が話した「赤い半纏」という怪談は、昭和の噂話「赤いマント」と同様の「型」を持つ。このような話は全国各地に存在すると思われ、それを発見したりする喜びもまた、民俗学の楽しさなのだ。

 そして民俗学のもうひとつの醍醐味ともいえるのが、「フィールドワーク」だ。これはいわゆる現地調査であり、歴史のある民家を訪ねてその由来を聞いたり地元の伝承を調べたりするのである。桑子は大学の教授に誘われて古民家の蔵の「虫干し」を手伝うことになるのだが、これも立派なフィールドワーク。「小っちゃい神様」が見える桑子は古い金庫の鍵を見つけて大活躍し、フィールドワークの楽しさに触れ、さらに民俗学に興味を抱くのであった。

 民俗学といえば、柳田國男先生のような大家の名前は割と知られていると思うが、では実際、日々の研究がどのようなことをしているのかはあまり知られていない気がする。本作は漫画という分かりやすい形態で、民俗学についていろいろなことが理解できるようになっている。こう書くと学術書のようにも思えるが、本作は間違いなく漫画。九尾寮に集う「こまったやつら」と共に、桑子が民俗学にハマっていくさまを楽しみながら、民俗学についても学べる一石二鳥の作品なのである。

文=木谷誠

あわせて読みたい