ひげ税に肥満税…古今東西存在した「トンデモ税」から税制について考えてみる

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更新日:2022/4/14

世界を変えた「ヤバい税金」(イースト新書Q)
『世界を変えた「ヤバい税金」(イースト新書Q)』(大村大次郎/イースト・プレス)

 所得が増えず生活がいつまでも楽にならないのは、重税のせいなのかもしれない。私たちは、税への理解を深める必要がありそうなのだ。

 元国税調査官である著者がまとめた『世界を変えた「ヤバい税金」(イースト新書Q)』(大村大次郎/イースト・プレス)は、古今東西70個の税金にまつわるエピソードを集め、税金の姿を浮き彫りにする。税制は国家の将来のために機能しているとは限らず、むしろ人類の歴史を振り返ると、税金が国民のためにしっかり使われていた国は非常にまれ、と本書で著者は述べる。国の指導者や上層部は好き勝手に税金を使おうとするため、その費用をねん出するのにどの国の財務官も四苦八苦しており、時には「トンデモ税」が誕生しては消えてきた、と明かしているのだ。

 本稿では、本書から気になるトンデモ税のいくつかをごく簡単にご紹介したい。

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乳房税

 本書によると、200年前ほどのインド・ケララ州にあった乳房税は、「身分の低い女性が街中に出るとき、乳房を隠したければ税を払わなければならない」というもの。イギリスに植民地化されつつあったインドが、イギリスに収奪された資金を補うべく設けられた税のひとつ。税額は乳房の大きさなどによって定められたそうだ。この税は、ある美しい女性が税の理不尽さから自分の乳房を切り落とし絶命した事件を機に抗議運動が燃え盛り、廃止されたという。

ひげ税

 18世紀初頭に現れて「ロシア帝国」をつくったピョートル大帝が国を繁栄させるために設けたさまざまな新税のひとつが、ひげ税。口ひげを生やしている人に課せられたひげ税は、各身分の懐具合に応じて税額が変わったという。大富豪などは100ルーブル、貴族や役人、商人は60ルーブル、修道士は50ルーブル、一般市民は30ルーブル、農民は1カペーカ(1ルーブルの100分の1)だったそうだ。ただ、このひげ税のほか、煙突税、帽子税などの新税の多くは税金としての効率と評判が非常に悪く、やがて廃止されたという。

肥満税

 2011年にデンマークで導入された肥満税は、国が国民の健康に配慮して、飽和脂肪酸(コレステロール値を高めるとされる脂質)に課したもの。飽和脂肪酸が2.3パーセント以上含まれる食品が課税対象となっていた。肥満税によって、例えば250gのバターが2.2クローネ(約30円)以上も値上がりしたそうだ。この税の影響で税導入直前に食料品の大量買い占めが起きたり、導入後も値段が高騰したり、ドイツ国境の住民がこぞってドイツで買い物をするようになったりと混乱が生じ、また、政府がもくろんだほどの税収も確保できなかったことから、わずか1年で廃止されたという。

 著者はあとがきで、今の日本の税金、社会保険料の負担率を合わせると、平均的なサラリーマンなら江戸時代の年貢よりも重い負担を強いられていると記している。そして、重税は政治家や官僚のせいばかりではなく、国民がしっかりと監視できていないことも影響している、と説いている。

 本書を読めば、トンデモ税は必ずしも昔、または海外ばかりで設けられたものではないことがわかる。近現代の日本でも施行されている。本書を読み、私たちがまずは税に関心をもつことで、私たち自身の生活が楽になっていくのかもしれない。

文=ルートつつみ (@root223

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