時代の変化で変化していくモノやコト……それでも、この50年で“変わらないもの”とは

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/16

変わるもの 変わらないもの
『変わるもの 変わらないもの』(天野勢津子:イラスト、Haruta Yato:著/ルアナパブリッシング)

 時代とともに、私たちを取り巻くモノやコトは変化していく。代表的な例としては、50年前は存在すらしていなかったスマートフォンが今や生活必需品となったことが挙げられる。

 50年前と今、どちらが「良い」「悪い」と判断するのは個人の主観による部分が大きい。見逃しがちなのはこの50年で変化していないこともあるということだ。

『変わるもの 変わらないもの』(天野勢津子:イラスト、Haruta Yato:著/ルアナパブリッシング)はタイトルのとおり、時代によって変化したものとそうではないものがあたたかみのあるイラストと文章で説明される。

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 技術の進歩によってモノは変わるが、多くの人が大切にしている感情や人間関係は、そこまで大きく変わっていないようだ。

 本作で語られる「あのころ」は昭和40年代からバブル全盛にかけての時代だ。当時を知っている人はなつかしさを、知らない人は逆に新鮮さを感じるかもしれない。

 章は「小学生のころ」「青春時代」「社会人」「家族と暮らし」とライフステージによって四つに分けられ、それぞれに具体的な項目が挙げられている。

 たとえば「青春時代」の章は「体育の時間と体操服」「アイドルの応援」「出会いの機会」が詳しく説明され、それぞれ「あのころ」と「いまどき」に分かれている。

 ここ最近は、学校によるかもしれないが、体操服は男女同じものが多くなり、アイドルを応援する人たちを「親衛隊」と称することはなくなって「○○推し」という言葉が定着した。「あのころ」にあった雑誌のペンフレンド募集のコーナーは消え、「いまどき」はマッチングアプリを出会いの場にする人が多い。

 最近、配信サイトで平成初期に大ヒットしたドラマを見た。

 ヒロインが好きな人に公衆電話をかける場面がまさに「あのころ」を象徴するものだった。スマホどころかケータイもない時代、会わずにコミュニケーションをとるのは自宅の電話か公衆電話しかない。ヒロインは好きな人に伝えたいことがあるのだが、言葉が出ずに沈黙したままで、そうしているうちにテレフォンカードの残量がごくわずかになる。

 ヒロインは思い切って公衆電話に10円を入れる。それは視聴者とヒロインが、あと1分という時間制限を共有した瞬間だった。2000年以降はほぼ目にしなくなった表現である。

「青春時代」の最後のページは、公衆電話から好きな人の自宅に電話をかける若者の絵でしめくくられる。好きな人と話したい、でも好きな人の親が電話に出たらなんて言おうかな……そんなドキドキも、昭和や平成初期の恋愛の醍醐味だったのかもしれない。

 一方で、変わらないのは若者の心だ。

 ちょっとしたことで心がいっぱいになり悩んだかと思えば、楽しいことがあると心が沸き立つ。

今を思いっきり生きること
それが大事

 最後の「家族と暮らし」の内容は全体のまとめのようにも受け止められる。ぜひ読んでほしいが、中でも印象に残るのは「持っているモノ」だろう。

「あのころ」として左ページには9つのモノが描かれている。時計、日めくりカレンダー、紙の地図、手帳…これは時代を問わず必要なものだ。ところが、右の「いまどき」になると、それはたくさんのアプリが表示されたスマートフォンひとつしかない。

 本作を読んだあと、技術はどこまで進化するのか、この50年で変わらなかったものは今後もそうなのか思いを巡らせてみると、新たな発見があるはずだ。

文=若林理央

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