トモダチは5つの言葉を話すロボット? 益田ミリ画業20周年記念作品『ミウラさんの友達』

マンガ

公開日:2022/4/16

ミウラさんの友達
『ミウラさんの友達』(益田ミリ/マガジンハウス)

 ロボットは未来をテーマにした創作物でよく描かれるもののひとつだ。その多くはまるで人間のように描写される。細かな動作ができ、たくさんの語彙を持つロボットは、ときに人間の味方として、ときに敵として作品に登場する。

『ミウラさんの友達』(益田ミリ/マガジンハウス)に出てくるロボットは、主人公ミウラさんの「トモダチ」で女性の姿をしている。しかし彼女は突然ミウラさんの前に現れたり、世界を変えるような行動をとったりはしない。トモダチは、ミウラさんが不動産屋で100万円を出して買ったものであり、あらかじめ技術者が初期登録をした4つの言葉と、ミウラさんが設定する1つの言葉しか話せないのだ。

 ミウラさんはトモダチと暮らすことをルームシェアと呼ぶ。ふたりで散歩をしたり、トモダチの分も切符を買って遠出をしたりする。

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 ミウラさんの心の中には、仲が良かったのに、言葉選びを間違えたせいで遠い存在になった人間の友人がいた。あのとき、思ったことを口にしなければ。もしくは言葉の表現を変えていれば。心を許した関係であればあるほど、一度傷つけられると「もう会いたくない」と思ってしまう。だれもが一度は経験したことがあるのではないだろうか。ミウラさんは傷つけてしまった側なので、その出来事を思い出すときはかならず罪悪感をともなう。

 言葉で離れた親友と、限られた言葉でつながる「トモダチ」という名のロボット。

 トモダチといっしょの時間を過ごし癒されながらも、やはり親友と仲直りができていない事実は傷として心に残っている。

 ミウラさんは横で歩くトモダチを見て思う。

あなたを作った人は、
なぜ、あなたを作ったんだろう?

 作者は、実はミウラさんのすぐ近くにいた。お互いに気づかないまま、ミウラさんは作者に「ロボットが心を持つようになると思いますか?」と聞く。感情はないと答える彼を見て、ほかの質問をする。

ただし、ロボットを作った人の心は感じられませんか?
このロボットを作った人は、どういう思いを込めたのかな~

 ミウラさんはだんだんと、トモダチを通して作者の気持ちを考えるようになるのだ。

 この漫画では衝撃的な出来事が起きない。ただ、ひとりの女性が、トモダチを通して新たな人と人との関係を結んでいく。そんな物語なのだ。

 今年、益田ミリさんは漫画家としてデビューしてから20周年を迎えた。その集大成とも言える本作を読めば、それぞれの読者が、自分の身近な人を思い、彼らを大切にしているかどうか振り返ることができるはずだ。

文=若林理央

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