「何も持たない少年たち」は、傷つきながらも戦いの日々を駆け抜ける。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 特別編』第1話

アニメ

公開日:2022/4/13

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』©創通・サンライズ

「ねえ、次はどうすればいい? オルガ」
「決まってんだろ、行くんだよ。ここじゃないどこかへ。本当の居場所に」――。

 大人を銃で撃ったばかりの少年が尋ねると、もうひとりの少年が答える。40年以上続く『機動戦士ガンダム』シリーズの中でも、最も衝撃的なオープニングのひとつだろう。

 2015年から2016年にかけて放送されたTVシリーズ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ(以下、オルフェンズ)』が、特別編として放送されている。TVシリーズ本編は第1期と第2期を通じて全37話で放送されたが、特別編ではそれを全9回に編集して放送されるという。第1回目の放送となる「特別編#1」は第1期の第1話「血と鉄と」から第5話「赤い空の向こう」までのドラマを約30分(TVアニメ1話分)にまとめていた。

advertisement

 火星の都市・クリュセに本部を置く民間警備会社CGSは、クーデリア・藍那・バーンスタインという少女を地球へ送り届ける護衛任務を引き受ける。その少女を狙って、地球の治安維持組織・ギャラルホルンがCGSの基地を襲撃。CGSで働いていた孤児たち、三日月・オーガスとオルガ・イツカたちは、CGSの基地に置かれていた(動力源として使われていた)ガンダム・バルバトスを起動、ギャラルホルンに反撃するのだった。ガンダムの力を得た少年たちは、クーデリアの依頼を断ろうとするCGSに反旗を翻す。そして、自分たちの手でクーデリアを地球へ送り届けることにする。オルガをリーダーとする彼らは、決して散らない鉄の華――鉄華団と名乗るのだった。

 この「特別編#1」では完全新規のオープニング映像とともに、第1話、第2話のモビルスーツ戦をたっぷりとクローズアップし、本作ならではの、「何も持たない少年たち」が戦いに巻き込まれる過程を丁寧に編集している。

 本作の監督は長井龍雪。シリーズ構成・脚本は岡田麿里。ふたりは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』といった、瑞々しい青春をモチーフにした作品で知られる、人気コンビだ。過去のインタビューによると、長井監督に本作の監督が依頼されたのは『心が叫びたがってるんだ。』の制作前とのこと。もともと長井監督は、ゲーム『THE IDOLM@STER』のキャラクターが巨大ロボットを操る、異色ロボットアニメ『アイドルマスター XENOGLOSSIA』を手がけたことがあり、超能力をもつ女子中学生によるアクションアニメ『とある科学の超電磁砲』シリーズも担当している(こちらもロボットがよく出てくる)という監督でもある。別のインタビューでは、好きなアニメ作品はロボットアニメ『天元突破グレンラガン』だと発言したこともあり、ロボットアニメへの思い入れも強い様子。彼がストーリーを作るときに、ディスカッションをできる相手として岡田麿里さんを現場に呼んだのが、コンビ参加の経緯だという。

 長井監督は1976年生まれ、初代の『機動戦士ガンダム』の本放送のときはまだ物心がついたかどうかくらいのころで、おそらくいち視聴者、いちファンとして、「ガンダム」シリーズに接していた時間のほうが長いだろう。長年ファンだった作り手が、40年以上も続く「ガンダム」シリーズに参加すると、おのずと「ガンダム」シリーズに対する批評性が作品ににじみ出てしまうもの。本作においても「ガンダム」シリーズの要素を丁寧にクローズアップし、読み替えることによって、現代的な物語をつくりあげている。

 たとえば少年兵というテーマ。初代『機動戦士ガンダム』では、戦火から逃れるために戦わざるを得なかった少年たちの姿を描いていた。本作では階層社会の中で、生まれたときから貧しい環境で生きてきた少年たちが武器を取る姿に、焦点を当てている。彼らが手にしたものが「ガンダム」。本作では「ガンダム」は、過去の戦争の遺物であり、いまだに圧倒的な力を秘めるオーパーツ的な存在として描かれている。少年兵たちは眠っていた兵器の力を目覚めさせ、生き残るために世界を転戦していく。

 あるいはロードムービーというスタイル。初代『機動戦士ガンダム』ではライバルキャラクターのシャアに追われ、宇宙にあるスペースコロニーから地球へ。地球の連邦軍基地を目指して、広大な大陸を転々としていった。一方、本作では、火星独立という理想を抱くクーデリアを地球へ送り届けるため、火星から地球へ向かっていくというストーリーに仕立てられている。当初は、自分たちの手でクーデリアを送り届けることで大人たちから独立しようとしていた三日月とオルガたちだったが、やがてクーデリアの意志を知り、自分たちの行動の意味を見出していく――このように、基本的に初代『機動戦士ガンダム』の構造をなぞりつつも、空っぽだった少年兵たちが自分たちの存在理由に向き合っていく。『オルフェンズ』を、『ガンダム』シリーズの基本形を現代に合わせた、生々しい物語に仕上げているのだ。

 とくに長井監督らが本作の前半(TVシリーズ第1期、特別編#1、#2)で描いているのが「子どもと大人の違い」である。

 三日月とオルガたちは、戦いに巻き込まれた同世代の少年少女たちだけで「鉄華団」という組織を結成し、大人たちと渡り合っていく。保身に走る大人たちがいる「CGS」という民間軍事会社、伝統に縛られている「ギャラルホルン」、腐敗したスペースコロニーの公社、老獪な軍人たちが次々と登場し、彼らの進む道に立ちはだかる。

 彼らはときに感情的に、ときに勢いのままに、自分たちよりも経験を積み、狡猾な相手に挑んでいく。それは無謀かもしれない。勝算が立たない戦いなのかもしれない。だが、――「こんなところじゃ終われねえ」とオルガは言う。ときには失敗し、仲間を失い、傷つきながらも彼らは進み続ける。青臭く野心に満ちた少年たちの歩みは止まらない。三日月はガンダム・バルバトスで道を切り開き、オルガは鉄華団を走らせるのだ。

 戦うことしかできない愚直さにロマンチシズムを描いているわけでもなければ、戦争を美化しているわけでもないのだと思う。彼らはさまざまなものを失い、代償を払い続け、前に進んでいく。血なまぐさく泥にまみれた日々であっても、彼らにはかけがえのない瞬間であることは間違いない。おそらくこれも、ひとつの青春のかたちなのだ。

 これまでさまざまな青春を描いてきた長井監督たちだからこそ作れる「ガンダム」。それが『オルフェンズ』だ。三日月とオルガたちのまぶしすぎる一瞬の輝きを目撃するのならば、エピソードをぎゅっとまとめた今回の「特別編」は、ぜひ観ておくべきだろう。続く「特別編」#2は「鉄華団」におけるターニングポイントが描かれる。彼らの輝きは、ここから始まる。

文=志田英邦

あわせて読みたい