大人も子どもも楽しめる! 仕掛けだらけの「ヨシタケシンスケ展かもしれない」開幕! 一番の見どころは、“あなた以外のお客さん”!?

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/21

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 絵本作家デビューは40歳と遅咲きながら、それからの10年でMOE絵本屋さん大賞の1位をたびたび獲得し、哲学者・池田晶子の名前を冠した「わたくし、つまりNobody賞」やボローニャ国際児童図書賞(フィクション部門)を受賞するなど、国内外の壁をこえて、さまざまな角度から評価され続けているヨシタケシンスケさん。初の大規模個展となる「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が東京・世田谷文学館で開幕。こののち、兵庫、広島、愛知へと巡回予定の同展を、一部、特別にお見せしよう。

(取材・文=立花もも 撮影=内海裕之)

ヨシタケシンスケ展かもしれない
撮影:黒澤義教

 タイトルの由来はもちろんデビュー作の『りんごかもしれない』から。なにげなく置かれた平凡なりんごを見て、ふと「もしかしたらこれは、りんごじゃないのかもしれない」と疑問を抱いた男の子が、あれこれ妄想をくりひろげる同作は、思い込みや常識にとらわれては面白くない、目にするものがすべて真実とは限らないと哲学的に示唆しつつ、“かもしれない”の可能性をユニークに広げて、考えることの楽しさを教えてくれる一冊だ。そんなデビュー作にちなんで、会場にはさまざまな“かもしれない”パネルが設置されている。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない

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 世田谷文学館の入り口を入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、子どもの遊び場のようにデコレーションされたグッズ売り場で、「お店のひとはなにかおみやげを買ってほしいのかもしれない」と立て札を持った女の子と目があうが、ひとまず「会場はこっちかもしれない」のパネルに従って階段をのぼり、会場へ。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 段ボールでつくられた会場もどきが、まずお出迎え。扉を開けたくなるが、さわってはいけないので、グッと我慢。でもだからこそ「この扉の向こうには、ミニチュアのヨシタケワールドが広がっているのかもしれない……」とはやくも妄想がふくらむ。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 そうして本物の入り口から中に入ると、まず目に飛び込んでくるのが巨大なオブジェ。ヨシタケさんが大学時代に制作していた作品だ。だが「でっかいな~」と感嘆しながら次にまた一歩進むと「ちっちゃ!!!!!」と叫ぶことになる。ヨシタケさんがふだん雑記帳として使っている手帳に描かれたスケッチがとても小さいのは有名な話だが、何百枚ものスケッチが壁にびっしり張り出されており、その一枚一枚を堪能するだけで一日ここにいられそう。

ヨシタケシンスケ展かもしれない
©ShinsukeYoshitake

ヨシタケシンスケ展かもしれない

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ヨシタケシンスケ展かもしれない
©ShinsukeYoshitake

 そこからめくるめく、等身大のヨシタケワールドが展開していくのだが……。本展、おもしろいのは順路らしい順路が存在しないこと。みんなそれぞれの直感に従って、好きなところを好きなように観ている。「あ、こんなところにこんなものが!」と驚きに満ちた表情を浮かべる人にならって、細部まで観察していると、そこかしこにヨシタケさん手書きの付箋が貼られており、展示台の隙間にも、思いもよらぬ作品が。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない
©ShinsukeYoshitake

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 ただ眺めるだけでなく、参加型の展示が多いのも実にヨシタケさんらしい。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない
ヨシタケシンスケ展かもしれない

 お題に従ってジェスチャーゲームを楽しめるボックス(自分でやるのも楽しいが、見ず知らずの大人たちが本気ではしゃいでいるのを見るのも楽しい)、絵本『このあとどうしちゃおう』の世界をもとにした“てんごくのふかふかみち”を実際に体感できるブース(本当にふかふかで足が沈むのでびっくりする!)や、“じごくのトゲトゲイス”(場所によっては悲鳴をあげてしまうほど痛いが、ツボ押しにはいいかもしれない……)。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 こうるさい文句を言う大人たちの口にりんごを放りこむと、とたんに笑顔になる体験展示もあるが、これがけっこう難しいのでついつい本気になってしまう。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 なお、大きいものばかりに目を奪われて、自分ひとりの視点で、自分に見える範囲だけで楽しもうとすると、たくさんの仕掛けを見落としてしまうので要注意。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 上を見ても、下を見ても、隙間を覗いても発見があり、「なるほど!」や「まさか!」に満ち溢れているのは、ヨシタケさんの絵本と同じで、この展覧会を作り上げた人たちがどれほどヨシタケさんの作品を愛しているのかが、よくわかる。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 学びもたくさんあって、拡大展示されたヨシタケさんのアイデアスケッチを読むのは、創作を志す人の勉強にもなるだろう。こちらは、ミュージアムショップで販売している図録にも収録されているので、ぜひ買い逃しのないようにしてほしい。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 グッズも遊び心たっぷりの品々ばかりで、買って中身を確認するまで柄のわからないTシャツなんてものもある。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

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ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 順路がないぶん、縦横無尽に、自由に歩き回れるこの会場は、同じ道でも通るたびに見える景色が変わる。どれだけいても飽きないが……出口に向かう最後の道は、一転して真っ白な背景に、ヨシタケさんのメッセージがシンプルに飾られているのも、とてもいい。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 さまざまな発見を通じて、発想力を育てたところで、いったんクールダウンして、今度は、まっさらな頭で、自分だけの未来を想像してみる。この道を抜けた先、展示会の魔法がとけて、現実に戻ったときに、それでもヨシタケさんからもらった“何か”を抱いたまま、自分はどんな未来を歩んでいけるのだろう、と。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

 入り口に設置された「はじめに」でヨシタケさんはこんなことを書いている。〈この展覧会の一番のみどころですが、それは「あなた以外のお客さん」です〉。作品だけでなく誰がなにをどんなふうに楽しんでいるのかもふくめて堪能してほしいのだ、と。それは会場のなかだけでなく、外の世界でも言えること。自分以外の誰かの視点を、おもしろがってとりいれることができたら、きっと世界はもっとずっと楽しく彩られていく……かもしれない。

ヨシタケシンスケ展かもしれない
撮影:黒澤義教

 最後の最後までお楽しみのたくさんつまった本展、ぜひとも、一度ならず何度でも足を運んでみてほしい。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ヨシタケシンスケ展かもしれない
会期 2022年4月9日(土)~2022年7月3日(日)
会場 世田谷文学館(東京都世田谷区南烏山1-10-10 Tel. 03-5374-9111)
開館時間 10:00~18:00(入館とミュージアムショップは17:30まで)
休館日 毎週月曜日
観覧料 【日時指定制】一般1,000円 65歳以上・大学・高校生600円
オンラインチケットサイト

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