あまりにも美しく苛烈! 現実と幻影が入り乱れる幻想世界で異国の少女が活躍する“ヒストリカル・ネオファンタジー”

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/22

夜の都
夜の都』(‎山吹静吽/KADOKAWA)

「美しい」と「恐怖」が入り混じる唯一無二のこの世界観に、ずっと浸っていたい。そう感じさせる『夜の都』(‎山吹静吽/KADOKAWA)は、読み終えるのが惜しくなる幻想的なファンタジー小説だ。

 本作は、2017年に『迷い家』で日本ホラー小説大賞の優秀賞を受賞した山吹静吽氏による、斬新な魔法少女物語。ここには、ある日突然、目を疑うような世界に触れ、魔法修行をすることとなった少女の葛藤と成長が描かれている。

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異国の少女が眠りの世界で「魔女」に出会って…

 1920年代前半(大正時代)、14歳の少女・ライラは、ある日、父や義母とともに『ガリヴァー旅行記』に登場する東洋の島国を訪れた。宿泊ホテル付近の洞窟の中で古井戸を発見し、井戸の底から湧き出た小さな光の砂が目に入ってしまった。

 ホテルに戻ったライラは強烈な睡魔に襲われ、ベッドに倒れ込んでしまい、気づくと見知らぬ場所に。宮殿のような建物を発見し、中に入ると、突然、仮面舞踏会が始まった。

 楽しい。でも、何かを忘れているような気がする…。そう思いながら踊っていると、耳に飛び込んできたのは、電話のベル。相手はなんと魔女だった。

「クダン」と名乗る、その魔女は信じがたい事実を次々と口にする。

“貴女は精魅の巣で眠りの砂を浴びています。その為、幻影に惑わされているのです”

“一刻も早く己を解き放たなければ貴女は全てを忘れ幻影に閉じ込められてしまうでしょう。頬を抓ってごらんなさい。”

 ライラは魔女の忠告に従い、元の世界へ無事帰還した。だが、後日眠りの砂を舐めてしまい、再び異世界へ。またしても、クダンの助けを借りることとなるのだが、この超常現象は魂が肉体を離れることで起きていて、いまこの瞬間、現実世界の自分は一時的に死んでいる状態であると聞かされた。

 さらに、クダンは言う。ここは、かつて地上に天降られた旧き神・月の姫の御所領である、星の界の異界。空の彼方に高くそびえる摩天楼は“夜の都”と呼ぶのだと。

 クダンの協力により、ライラは再び現実世界へ戻ることができたが、体に異変が現れる。なぜか、眠りの砂が無性に欲しくなり、人の死霊である亡者が見えるようになってしまったのだ。

 亡者は捕らえた生者の魂を肉体から引きはがし、魂が抜けた肉体には死が訪れる――。クダンからそう聞いたライラは、恐怖を感じ困惑する。すると、クダンはある提案をしてきた。

“貴女に魔術を教えてあげる。亡者を祓い身を守る、古の魔術です”

 クダンは、眠りの砂への渇望との付き合い方も教えてくれるという。そこで、ライラは弟子となり、門外不出の魔術師修行に励むことにした。

 だが、実はクダンにはある企みが…。ライラはピンチに陥ってしまい、“夜の都”へ足を踏み入れることとなる――。

 本作は、ところどころに史実が織り込まれており、ファンタジー作品でありながらリアリティも感じられ、読み進めやすい。魔術の凄さを感じられる迫力満点のバトルシーンも必見だ。

 果たして、ライラの運命やいかに…? ラストで判明する、夜の都や眠りの砂の秘密に、あなたもきっと驚愕するはず。現実と幻影が混在する不思議な世界観を、最後の1行まで楽しみ尽くしてみてほしい。繰り返し味わいたくなる、眠りの砂のような中毒性が本作にはある。

文=古川諭香

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