『水曜日のダウンタウン』で奇跡の仲直り! 超絶不仲コンビが57年の漫才生活を振り返るガチンコ・ノンフィクション

エンタメ

公開日:2022/5/4

東京漫才
東京漫才』(おぼん・こぼん/飛鳥新社)

 お笑い芸人にとって、“相方”とは実に奇妙な存在だ。夫婦でもなければ、友達でもない。仕事の同僚とも距離感が違う。センターマイクの前に立てば爆笑をさらうが、楽屋では口もきかないコンビも少なくないと聞く。たとえ仲が悪くても、互いの“笑い”に関してだけは絶大な信頼を置いている関係性……ということだろうか。

 数多の芸人の中でも、“超絶不仲コンビ”として知られていたのが、芸歴57年のおぼん・こぼん。バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』で全国的にその不仲ぶりが知れ渡り、2年がかりで奇跡の仲直りを果たした東京漫才界の重鎮だ。

 このたび刊行された初の自伝的回顧録『東京漫才』(おぼん・こぼん/飛鳥新社)は、そんなふたりがそれぞれの視点で、生い立ち、デビュー、下積み時代、相方への思いなどを交互に語り、漫才師人生を振り返った1冊。冗談を交えつつ歯切れよく喋るおぼんさん、丁寧な言葉づかいで話を進めるこぼんさんと、話しぶりの違いからもふたりの個性が浮き彫りにされていく。

advertisement

 ふたりの波乱の半生もさることながら、昭和のショービジネスについて貴重な証言が聞けるのも興味深い。今の若手芸人はお笑いライブで経験を積み、メディアに進出するのが一般的だが、おぼん・こぼんはまったく違うルートをたどってきた。大阪の高校で同級生だったふたりはコンビを組み、素人お笑い番組に次々出演。高校卒業前に早々と上京を果たし、事務所の倒産を経験しながらも芸人としてキャリアを重ねていく。回ってくる仕事はキャバレーでの営業や歌謡ショーの司会ばかりだったが、それが逆に良かったのだろう。なにしろ、キャバレーでは漫才をやったところで見向きもしてもらえない。そこでふたりは、漫才に加えてジャズや民謡を歌ったり、モノマネをしたり、タップダンスを披露したりと総合的なエンターテインメントで客を沸かせていたという。こぼんさんいわく「昔の芸人にとってタップは“必須科目”」。ビートたけしさんがタップダンスを得意とするのも、そういう時代を経ているからかと目から鱗が落ちる。

 その後も、おぼん・こぼんは漫才だけでなく、タップや歌、楽器演奏を交えてショーアップした芸を磨いていく。高級レストランシアター「赤坂コルドンブルー」に10年間出演し続け、時にはラスベガスまで本場のショーを学びに行ったことも。こうして地力をつけたからこそ、オーディション番組『お笑いスター誕生!!』で10週連続勝ち抜き、お茶の間の人気者になれたのだろう。

 そして漫才ブーム、バブル期の華々しい話を経て、やがて話題はふたりのコンビ仲に移っていく。

そもそも「アレがこうだったから」とか「コレがああだったから」といった具合に、仲違いしていく理由なんて確たる“何か”ではありません。
言ってみれば、普通の夫婦喧嘩みたいなものなんじゃないですか。

 こぼんさんがそう言うとおり、決定的な“何か”があったわけではない。もしかすると、当のふたりもなぜここまでこじれてしまったのかわからないのかもしれない。読者としても、交互に語られる互いの見解に耳を傾けるのみ。しかも、どちらの言い分もわかる。だからこそ、どちらかが折れればそれで解決、とはいかないこともよくわかる。もはや気分は、仲裁役のお笑いコンビ・ナイツだ。

 仲直りしたにもかかわらず、文章から伝わるほど現在進行形でピリピリした空気が流れるおぼん・こぼん。読み進めるうちに「本当に仲直りしているのか?」「全然仲悪いままじゃないか、コレ……」と不安になってくる。しかし、それでもふたりは別れない、いや別れることができないのだ。おぼんさんは「2人でおぼん・こぼんだからサ」、こぼんさんは「代わりがいないですもん」とお互いへの思いを語る、この不思議な関係性。これだけ確執があっても、「100歳になっても漫才、続けたい」「高校時代に戻ったとしても、もう一度コンビを組みたい」とはどういうことなのか。やっぱり“相方”ってわからない。わからないからこそ、惹きつけられずにいられない。

文=野本由起

あわせて読みたい