UFOに遭遇した東大生、救世主となった東大生…11人の東大出身者が体験した本当に怖い話『東大怪談』【著者コメントあり】

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/5

東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話
東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話』(豊島圭介/サイゾー)

 東京大学に通う学生、通称・東大生。東大出身の人に会うと、想像力の乏しい筆者は「頭脳明晰」「論理的思考」「クイズ番組でめっちゃ正解を叩き出す」などのワードが浮かぶ。

 一方、そんな彼らとは縁遠そうに思えるのが、非科学的な「怪談」や「心霊」「オカルト」などの超常現象を表す言葉ではないだろうか。

 東大生と超常現象という、異色の組み合わせが楽しめる一冊が『東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話』(豊島圭介/サイゾー)だ。

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 著者の豊島圭介氏は、東京大学教養学部を卒業後、オムニバス怪奇ドラマ「怪談新耳袋」シリーズで監督デビューを果たし、現在も多くの映画やドラマの制作に携わっている。同書は、豊島監督が聞き手となって11人の東大出身者が体験した“説明不可”な出来事を文章にしたためた、実話怪談集となっている。

『東大怪談』で語られる“怪談”は心霊現象だけではない。同書の冒頭では“東大怪談”を以下のように定義している。

「とうだい-かいだん【東大怪談】(名詞)
一.東大生あるいは東大出身者が体験した、化け物・幽霊などの出てくる気味の悪い話。
二.東大生あるいは東大出身者が体験した、真相がさだかでなく、納得のいかない出来事。
三.東大生あるいは東大出身者が体験した、異常な人間がかかわる怖ろしい話。
または異常な東大生本人にまつわる話。」

 実際、東大怪談の種類は幽体離脱や金縛りなどの心霊体験もあれば、UFOとの遭遇や予知夢、ゴミ屋敷で育った壮絶な過去など多岐にわたる。

 第十話「パラレルワールドに行った官僚」の話し手・小野乃篁氏(50代・19●●年文科三類入学)は、幼稚園の頃に自宅の台所で女性の幽霊らしきものを目撃して以来、さまざまな怪異に出会うように。小・高・大の学生時代にUFOと遭遇。もちろん、サブタイトルにあるようにパラレルワールドにも行っているという。

 そんな彼は、一度教科書を読むだけでその内容を覚えてしまうほどの記憶力の持ち主でもある。取材時も、固有名詞や状況など、怪談の内容を事細かに話して豊島監督を驚かせた。たとえば、彼が中学2年生の頃に初めて金縛りにあったときの体験談だ。

「医学的には疲れている時に脳の錯覚によって起きる現象だが、ごく稀にそれでは説明できない霊的なものがある」という知識はありました。「“そっち”じゃないといいなあ」と思いながら、恐る恐る目を開け周りを見渡しました。足元には何もいません。そのまま視線を上に上げていくと、枕元のあたりに気配があります。視界ギリギリのところに、ぼんやりとした黒い影みたいなものがじっと僕を見下ろしていました。
「“そっち”じゃん……」(中略)

 その後、毎週木曜日の同じ時間に金縛りに遭うようになり、黒い影に見下ろされる夜を過ごしていたそう。しかし、高校に入学すると木曜日のルールは破られ、一晩に何度も金縛りに襲われてしまう。

しかもです。金縛りを振りほどこうとして体を動かすと、奇妙なことが起きました。意識が体からふわっと離れて、いつの間にか天井に近いところから自分の体を見下ろしているんです。「幽体離脱」だと思いました。その都度、フワフワと飛んだり、突然別の場所に移動したりと、少しずつ違う感覚でした。でも、このまま意識が自分の体に戻れないと死ぬかもしれないと思って、いつも必死に体に戻りました。脱臼した肩がハマるような、「ぽこっ」という感じ。すると目がパッと開いて意識が戻るんです。

 加えて、幽霊のささやき声も聞こえてくるし散々だった、と彼は当時を振り返っている。連日の金縛りや幽体離脱は、たしかにインパクトがある体験だが、30年以上も昔の体験を、まるで今も続いているかのように語る小野乃篁氏。ほかの話し手と比べても、エピソードの生々しさが際立っていた。

 同書に登場するエピソードは、彼の驚異的な記憶力のように、生来の優秀さがうかがえる要素がちりばめられているのも特徴だ。彼らの優秀さや、奇妙さを「東大ポイント」と称して豊島監督が解説するコラムも掲載されている。話し手の印象や、彼らの内に秘められたコンプレックスや自意識など、あらゆる角度から東大出身者を分析しているので、東大怪談を読み解くヒントになるはずだ。

 今回は自著について「東大生の“自意識”と“恐怖の体験談”が絡み合ったら、誰も聞いたことのない手触りの話が生まれるのではないかと確信を持った」と語る豊島監督ご本人からもコメントをいただいた。

――どんな人に『東大怪談』をおすすめしたいですか?

豊島:昨今話題の「東大生」ですが、みなさんのなかにはいろいろなイメージがあると思います。頭脳明晰で論理的かつ科学的、オカルトなんていう非科学的な事象は鼻で笑って相手にしない。あるいは、頭はいいかもしれないが、コミュニケーション能力は劇的に低く、こだわりの強すぎる変人たち。どちらも真実だと思います。

 この『東大怪談』は、そんな東大出身者たちが実際に体験した怪奇現象を綴ったものです。クセの強い東大生に興味がある人、そんな東大生が体験した奇妙な話に興味がある人、または東大生の壮絶な人生に興味がある人、そんな方たちに読んでいただきたいです!

――全46話の中で、もっとも“東大生らしさ”を感じたのはどの怪談ですか?

豊島:第七話「救世主になった男」です。子どもの頃から勉強ができて「天才」と呼ばれた少年の趣味はZ会の数学を解くこと。順調に東大に進学し、研究者としての人生を謳歌しようとしていた矢先、博士論文の執筆で挫折を経験します。それがきっかけとなり、精神に大きなダメージを受けた彼は、「統合失調症」と診断され、入院生活を余儀なくされます。

 その彼が、病院であまたの「不思議な体験」をするのですが、我々の想像を超えた出来事の数々は衝撃的です。スーパーエリートの東大生だった彼がなぜ「救世主」になったのか、その顛末は必見です。

――最後に、オカルト好きな読者に『東大怪談』の楽しみ方を教えてください。

豊島:取材を通して僕自身が驚いたのは、彼らが体験した怪奇現象そのものよりも、体験者である彼らの人生でした。僕も東大に通いましたが、これほどまで業の深い人生を歩んでいる人が大勢いたなんて、想像もしていなかったです。やはり怪談は「どんな人がそれを体験したか」が重要なんだな、と感じましたね。業の深い人生を送ってきた人に“怪”は訪れるのです。

 また、エピソードの最後に「東大アンケート」と称して、各話者からアンケートを取りました。

「大学に落ちる恐怖と心霊体験、どっちが怖いですか?」「心霊現象は何だと思いますか?」「人間とは何だと思いますか?」などの質問をしています。どの方も「さすが東大生!」と言わざるを得ない、想像の斜め上を行く回答を記してくれました。正直、面白いです。『東大怪談』で「怪と人生」をワンパックでお楽しみいただけると幸いです。

 東大生にしか語ることのできない、唯一無二の怪談。東大怪談を通して、彼らの数奇な人生や思考を覗いてみては?

文=フクロウ太郎

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