ジャパン・エキスポ、世界コスプレサミット、聖地巡礼――日本のポップカルチャーの「いま」を知る

ビジネス

公開日:2022/5/11

ジャパニーズ・ポップカルチャーのマーケティング戦略
ジャパニーズ・ポップカルチャーのマーケティング戦略』(川又啓子、三浦俊彦、田嶋規雄編著/千倉書房)

 企業や自治体に勤める人がマンガ、アニメ関連の仕事の担当者になったものの、まるでその方面に疎くて――となったときに手に取るのに、ぴったりな本が刊行された。

 川又啓子、三浦俊彦、田嶋規雄編著『ジャパニーズ・ポップカルチャーのマーケティング戦略』(千倉書房)だ。

 この本が扱うのは「出版社や映像作品を扱う企業がいかに海外戦略に取り組んでいるか」といった話ではない。

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 日本のマンガやアニメの簡単な歴史の解説に始まり、パリで開催されているジャパン・エキスポや名古屋で開催される世界コスプレサミットの事例、インバウンドマーケティングの一環としての、海外からの聖地巡礼需要の喚起と自治体が取り組むべき課題、ファン同士のコミュニケーションの活性化に対して企業/プラットフォームが果たすべき役割などの話題が取り上げられている。

 日本のポップカルチャーに関係するイベントを主宰する、またはそれらに出展する人、あるいは地域活性化、観光業振興の一環としてサブカルの力を借りたいという人にとって、役立ちそうな基本的な知識、ポイントが書かれている。

 たとえばジャパン・エキスポが3200人の来場者を集めた1999年の初開催時から、2015年には約25万人まで成長(以後は横ばい)して欧州最大級の日本のポップカルチャーを扱うイベントになっている――ということくらいまでは、おそらく多くの人が知るところだろう。

 しかし、実際行ったことがなければ、実はアマチュアのイラストレーターやファンジン、観光局、日本のテレビ局、日本語学校なども出展しており、囲碁将棋や武道、応援団の実演なども行われていることは知らないかもしれない。けれど、こうしたことを知っているのと知らないのとでは、思いつく企画も、それがどのくらい意味のある施策なのかも変わってくるだろう。

 実はこうした海外で開催される日本のマンガ、アニメ関連イベントに、地方自治体が地域をプロモーションするためのブースを出展することはよくある。

 しかし、外国人向けにいわゆる「聖地巡礼」の需要喚起施策やそれを希望する人向けの案内を、自治体は積極的に行っているのだろうか。

 実は現状そうではない、という。

 というのも、大前提として、観光庁による外国人に対する調査では「映画・アニメゆかりの地を訪問」した人や、それを「次回したいこと」に挙げた人の割合は高くなく、たとえば『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地巡礼者にとって主要な訪問地のひとつである三の浦総合案内所(静岡県沼津市)を訪れる外国人は、コロナ禍以前の2018~2020年には全体の約3%(2000人前後)だった。

 年間1000人、2000人のためにどれだけコストをかけられるか、という話になってくるが(ただしハマった場合には50回以上リピート訪問する外国のファンもいるそうだ)、案内が十分ではない部分があるからこそニーズに応えられていない、またはニーズを刺激できていないととらえることもできる。

「前例」を気にする自治体などが求める成功事例も載っている。

 たとえば今では世界中から200万人以上の参加者が各地の予選大会に参加し、世界的に成功している世界コスプレサミット(WCS。2003年から愛知県名古屋市で毎年開催)。このイベントが興味深いのは、プロデューサーが開催時のニュースリリースをあえて海外の通信社経由で発信した、という広報戦略である。

 これによって海外の日本大使館にその国のコスプレファンから「なぜうちの国からは誰も出ていないのか」といった問い合わせが寄せられ、大使館から外務省に連絡があって外務省がこのイベントの存在を認知、そしてなんと外務省と国土交通省が支援するイベントとなった。

 ただ開催しただけでは、当然人は来ないし、国や自治体、企業からの金銭的な支援も得られない。世界コスプレサミットの事例は、海外から認知してもらうためにすべきこと、また、地方発のイベントが国や地元企業、自治体を巻き込んで実行委員を組成し、継続開催するためのヒントに満ちている。

 より具体的・実務的なことを知りたいレベルの人は違う情報源にあたるべきかもしれないが、「概論」的なことを知りたい人にはおすすめしたい一冊だ。

文=飯田一史

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