ダークヒロインが悪を駆逐! 松岡圭祐最新作は「高校事変」以上の青春バイオレンス小説

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/24

JK
JK』(松岡圭祐/角川文庫)

 窮鼠が猫を噛むのは最後の悪あがきではない。それは、覚醒。窮地に追い込まれた時こそ、真の力が目覚めることは珍しいことではないだろう。逆境は師。苦境に立たされた鼠が、猫を打ちまかしてしまうことだってありえない話ではないはずだ。

JK』(松岡圭祐/角川文庫)は、悪が蔓延る街に生まれたダークヒロインの活躍を描き出した青春バイオレンス小説。「千里眼」、「万能鑑定士Q」、「探偵の探偵」、「水鏡推理」など多くのミステリーシリーズで人気を博してきた松岡圭祐氏による最新作だ。松岡氏といえば、「人の死なないミステリー」をイメージする人も多いかもしれないが、本作は、人気シリーズ「高校事変」以上の破壊力を持つ物語。あまりにも凶暴、あまりにも危険なその内容に、誰もが思わず息を飲むに違いない。

 舞台は神奈川県。川崎にある懸野高校の1年生・有坂紗奈が両親とともに惨殺された。犯人は紗奈と同じ学校の3年生・笹舘麴をはじめとする不良集団に違いないが、警察は決定的な証拠をあげることができず、彼らの悪行は止まらない。それどころか、笹舘らが紗奈を殺害したという噂が流れ始めてからというもの、彼らはまるで天下をとったかのごとく、以前にも増して傍若無人に振る舞い出していた。暴力は日常茶飯事。ヤクザの後ろ盾がある彼らに逆らえる者は誰一人としていなかった。しかし、謎の女子高生・江崎瑛里華の登場で事態は大きく変わり始める。一人また一人と駆逐されていく不良集団。この街で何が起きようとしているのだろうか。

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 一体、江崎瑛里華は何者なのだろう。ストレートロングの黒髪。恐ろしく整った顔立ち。抜群のスタイルでありながらも、鍛え抜かれた身体つき。紗奈の事件の後から姿を見せ始めた江崎瑛里華はとにかく謎に包まれた存在だ。そして、彼女だけが唯一、不良集団に果敢に立ち向かっていく。瑛里華の美貌に魅了された不良集団は彼女を強姦しようと企むが、逆に返り討ちに遭うことに。血飛沫が上がろうと、相手が命乞いをしようと、顔色ひとつ変えずに不良集団を懲らしめていく瑛里華の姿には度肝を抜かれることだろう。

 目には目を。歯には歯を。悪には悪を。不条理な世界に抗うには、イリーガルな方法しかないのか。最初は、ダークヒロインの圧倒的な強さに恐怖を感じるだろうが、次第に悪を許さない彼女の姿勢に快感さえ覚え始めてしまう。諸悪の根源に対して社会が何もできないから、彼女のような存在が生まれたに違いない。だが、何が瑛里華をここまで奮い立たせるのだろうか。そんな疑問を抱えながら読み進めていくと、実は彼女もまた不良集団に抑圧され続けた者のひとりであることが明らかになっていく。そこにあるのは復讐心。窮地に追い込まれた時、彼女は覚醒してしまったのだ。

「暴力を振るったり、威張ったりするのがいて、学校に通うのが苦しみになるのなら……。閉めだしちゃえばいい。大人がなにもしてくれなくても、自分から拒絶すればいい」

 江崎瑛里華の身に起きた出来事が明かされていくにつれて、胸が締め付けられる思いがする。あなたもこの衝撃をどうか体感してみてほしい。どうして犯罪はなくならないのだろう。正しく真っ当に生きてきた人たちが苦しめられなければならないのだろう。読後、しばらく余韻が消えないこの作品は、不条理な世界を生きるすべての人に読んでほしい1冊だ。

文=アサトーミナミ

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