たった10秒の「ひとこと」で、好かれるか嫌われるかが決まる? 人間関係のトラブルを未然に防ぐルール

ビジネス

公開日:2022/5/16

10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと
10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』(佐藤綾子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 仕事の悩みの8割は人間関係といわれる。新年度が始まってそろそろ2カ月。職場に慣れ始めた新社会人の気の緩みが、職場に少なからずトラブルを生じさせているかもしれない。

10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』(佐藤綾子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)が興味深い。本書によると、「10秒」というわずかにも思える時間が、人間関係のトラブルを軽減させるキーになるようだ。

 著者は10秒間の大切さを、次のように説明する。ある心理学者と脳科学者の研究によると、人間はたった1秒間で視覚からだけでも1000万要素もの情報を取り入れており、そのうち40要素を脳で処理している。10秒だと1億の要素を取り入れ、400の要素を脳で処理している計算だ。しかし、著者が40年間専門にしているパフォーマンス心理学の研究によると、10秒の間に人間は約44文字(漢字、ひらがななど区別なく句読点含む)しか話せない。だからこそ、この44文字という限られた情報を戦略的に使うことに価値があり、コミュニケーションの質をぐっと高める、と著者は述べる。

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 本書では、8つのテーマ(お願いする/謝罪する/言いにくいことを言う/自己アピールする/共感する/ほめる/叱る/本音を引き出す)において、10秒間の使い方を解説している。各章ごとに“ルール”があり、これに従って10秒のフレーズをつくれば、相手に好かれるひとことになる、というのだ。

 この時期に役立ちそうな、具体的な例を見てみたい。

 新社会人は気の緩みから、多少の遅刻グセがついているかもしれない。遅刻したほうも、遅刻を叱責するほうも、言葉のチョイス次第で要らぬトラブルを招きかねない。

 まずは、遅刻した側の「10秒」から。本書の第2章「関係を修復する謝罪、挽回」の“ルール”は2つある。

1 大前提ルール
・「つくろいなおしの方程式」(間違いがあってもうまく修復して、前よりもより良い関係を再構築すること)を守る。修復の10秒フレーズで再結合に持ち込む

2 技術的ルール
・お詫びを言い訳から入らない
・責任転嫁や自己防衛をしない
・軽いお詫びから丁重なお詫びまでTPOに合わせて言葉を選ぶ

 続いて、本章の「電車が遅れて会社に遅刻したとき」の例を見る。本書は「10秒で嫌われるダメな例」と「10秒で好かれる良い例」を並べて示している。

【嫌われる例】
いやあ、すみません。
西武線がまた人身事故で遅れて、
その次の小田急線も遅れていて……
(41文字)

【好かれる例】
申し訳ありませんでした。
大事な場面での遅刻です。
この後何とか取り返しますので
ご容赦ください
(45文字)

 本書の解説のポイントをまとめてみると、次のようになりそうだ。

【嫌われる例】では、2つも鉄道名が出たことで、その部分が「すみません」より長くなって言い訳の印象が強く残り、「つくろいなおし」が失敗している。【好かれる例】では、電車のことはひとことも口にしておらず、心からのお詫びと今後の決意が「つくろいなおし」へとつなげてくれる。ちなみに、好かれる例のフレーズの「申し訳ありませんでした」の部分は、一本調子にならないよう、「ありませんでした」を下降調のイントネーションでしめると効果的だそうだ。

 次に、叱責する側の「10秒」を見てみよう。本書の第7章「次につながる叱り方」の“ルール”は5つある。

1 叱りと怒りを区別する

2 人格否定をしない

3 然るべきタイミングを見極める

4 五月雨式の長い指摘はしない

5 必ず救済措置をつくる

 本章の「いつも遅刻する部下に注意するとき」の例は、このようになっている。

【嫌われる例】
先月も2回遅刻したよね。
この半年だと10回以上だよ。
君はダメな人間だね
(35文字)

【好かれる例】
君が遅刻すると、
朝礼で分担が決められなくて
みんなにも迷惑がかかっているよ
(36文字)

 著者は【嫌われる例】で、まず「君はダメな人間だね」という人格否定、全否定をしていることをNGとしている。遅刻したという事実と、その人の人格とは関係ない、と強調している。また、「自分はダメな人間なんだ」という思い込みは、人間の成長を阻む最大の壁になる、というから、部下への人格否定や全否定は慎みたい。

 他方、具体的に真実を伝えれば、人格否定の恐れがなく、嫌味っぽくもならない、と著者は述べる。本人の意思に任せるだけでは改善が見込めそうにない場合は、「遅刻の原因になっていることはなんだろうね。一度紙に書き出してみてくれる?」と踏み込んでみることを、著者は勧めている。海外の著名な書で「問題点を書き出したところですでに解決に向かっている」という提言があるそうだ。ちなみに、「みんなにも迷惑がかかっている」のところでは、きつい顔をせず、眉頭を少し寄せて困った顔をすれば、より効果があると説明している。

 本書を読むだけに終わらず、練習と実践が大切だ、と著者は言う。それは、スポーツや武道と同じだという。たった10秒のひとことの積み重ねで人間関係が改善されるなら、すぐにでも取り組みたいところだ。

文=ルートつつみ (@root223

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