怖いイメージの「取り立て屋」がフレンドリーだったら……?「pixivマンガ原作コンテスト」受賞作がコミカライズ

マンガ

公開日:2022/9/30

フレンドリーな取り立て屋さん
フレンドリーな取り立て屋さん』(きたみまゆ:原著、ロキチキン:著/KADOKAWA)

 人間が社会で生活していくためには、多かれ少なかれ「お金」が必要である。あまり経験したくはないが、場合によっては借金をしなくてはならないこともあるだろう。そして借金をしたからには、必ず返済をしなくてはならない。しかし、である。もしもお金の工面に失敗して、返済できなかったら……。借りた相手によっては、「取り立て屋」というコワ~い存在が現れるかもしれない。そう、取り立て屋は「怖い」イメージがつきまとうもの。だがもし、そんなイメージを覆す取り立て屋がいたとしたら──?『フレンドリーな取り立て屋さん』(きたみまゆ:原著、ロキチキン:著/KADOKAWA)は、「親身な取り立て」がモットーの風変わりな取り立て屋を描いたハートフルストーリーである。

 本作は漫画やイラストなどのコミュニケーションサービス「pixiv(ピクシブ)」で行なわれた「マンガ原作コンテスト」でpixiv賞を受賞した原作をコミカライズしたもの。「取り立て屋という恐怖の存在がフレンドリーであるというギャップ」が評価ポイントであり、そのまま本作の見所ともなっている。

 日向奈緒はブラック企業に勤めるOLだが、ある日、彼女の前にコワモテの男が現れる。男は開口一番「沈められるとしたら、どこの海がいい?」と聞いてきた。実は奈緒の元カレが彼女名義で多額の借金をして逃亡し、男はその取り立てに現れたのである。その男こそ「親身な取り立て」をモットーとする佐田であった。いやいや、イキナリ「沈める」とかどこがフレンドリーかと思われるだろうが、大事なのはこの後である。彼は、会社を辞めようとする奈緒を強引に引き止めるブラック企業の社長を一喝して彼女を辞めさせると、当座の生活費として現金を渡し、さらに自分の会社に事務員として雇い入れたのだ。キチンとした生活を取り戻させた上で債権を回収する──これが佐田の「親身な取り立て」なのである。

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 奈緒が事務員となった後も、佐田のもとには取り立て案件が舞い込んでくる。ダメ親の借金を負わされてしまった娘や、妻の治療費を支払うために借金を重ねた男など、それぞれが事情を抱えていた。それに対し佐田は、あるときは娘の実家の仕送りを肩代わりし、あるときは男の持っていた借用書を回収していくのである。辛い日々に生きる希望すら失くしかけていた債務者たちは、佐田の「親身な取り立て」によって生きる気力を取り戻すのであった。

 ではなぜ、佐田はフレンドリーな取り立てをするようになったのか。実は彼はヤクザの組長の息子であり、父親を超えようとかつては強引な取り立てを繰り返していた。しかし彼の父親は金や権力で人を屈服させるのではなく、その人望によって多くの人から慕われていたのだ。佐田がそれを知ったのは、父親の死後。彼は本当の父を理解できなかったことを悔やみ、以後は「親身な取り立て」をモットーとするようになったのである。

 先述の通り、本作は「マンガ原作コンテスト」受賞作をコミカライズしたもので、さらに漫画としての完成度は非常に高いと感じた。最近はSNSなどネット発の作品が数多く発表され、ヒット作も枚挙に暇がない。もちろん出版社主催のコンテストも含め、新たな才能が誕生していく様を見れば、漫画界の未来は明るいと思えるのである。

文=木谷誠

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