【ネタバレあり】不朽の名作『キャンディ♡キャンディ』漫画史に残る名シーン3選!

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公開日:2022/5/22

※この記事にはネタバレが含まれます。ご了承の上、お読みください。

『キャンディ♡キャンディ』8巻【全9巻】(水木杏子:原作、いがらしゆみこ:作画/講談社)

 4月8日、声優の松島みのりさんが、81歳で亡くなられました。長いキャリアの中で、『ガラスの仮面』の姫川亜弓や『怪物くん』の市川ヒロシなど、数々の人気キャラクターを演じてこられた松島さん。声を担当したたくさんのキャラクターリストを見ながら、ふと目に留まったのが、『キャンディ♡キャンディ』の主人公、キャンディス・ホワイトでした。

 舞台は、20世紀初頭のアメリカ、イギリス。明るく前向きな孤児の少女キャンディが、人との出会いと別れを繰り返しながら、成長していく物語。愛する人との別離や戦争の悲惨さを伝えるシリアスな展開も多い。

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 1975年に漫画誌『なかよし』で連載されると、たちまち大ヒット。1976年にアニメ化された際、キャンディを演じたのが松島さんでした。原作を読んだことはないけれど、「そばかすなんて気にしないわ」から始まるアニメ主題歌をなぜか歌えるという方も多いはず。当時は社会現象とも言えるほどの人気を博したそうです。

 しかしその後、原作者と作画者による著作権問題が勃発。以来、現在に至るまでアニメDVDの再販はなく、コミックスも絶版になっています。久々に読みたいなと思っても、簡単に読める漫画ではなくなってしまったのです。いちファンとしては、とても寂しく残念に思います。

 もし、『キャンディ♡キャンディ』が今でも気軽に読める作品だったら、きっと読んだことのない友達に、これでもかと薦めていたことでしょう。なぜなら、『キャンディ♡キャンディ』は、大人にこそめちゃくちゃ響く作品なのです。

 だからといって、「ざっくりでいいから、あらすじ説明してよ」と言われると、困ります。全9巻とコンパクトにまとめられている割に、とにかく内容が濃い。なので、いつも面白さを伝えきれないジレンマに襲われてきました。キャラクターもエピソードも多いので、どこを切り取ればいいか、非常に難しいんですよね。でも、伝えたい。『キャンディ♡キャンディ』がどれほど、面白い作品なのかを。

 そこで、作中屈指の名シーンを厳選してご紹介したいと思います。原作を読んだことがない方も想像してもらえるように、あえて大胆にネタバレしていきます。ご了承ください。

『キャンディ♡キャンディ』名シーン3選!!

①ボーイフレンド、アンソニーの衝撃的な落馬シーン

 12歳のときに、名門アードレー一族のラガン家に引き取られたキャンディは、そこにいたニール&イライザの兄妹から嫌がらせを受けます。辛い日々を送るキャンディの前に現れたのが、アンソニー・ブラウンという少年でした。

 自身もアードレー一族であるにもかかわらず、対等に接してくれるアンソニーに、キャンディは惹かれていきます。アンソニーもまた、キャンディに特別な感情を抱くように。

 これから2人のラブストーリーが始まっていくのね…と思った矢先、アンソニーは狐狩りの最中に落馬して命を落とすのです。衝撃の展開でした。

 さて、この落馬シーン、初見の人は少しギョッとするはず。というのも、落馬の瞬間、アンソニーは、体は正面を向いているのに、なぜか頭は後頭部しか見えません。「アンソニーの首、ねじれてない?」と思うような不自然な体勢なのです。しかしこれ、アンソニーの表情をあえて見せないことで不安を煽っているんですよね。今の少女漫画にはなかなか見られない表現方法な気がします。一度見たら忘れられないシーンです。

②発明好き男子・ステアの美しくも悲しい墜落

 アンソニーと同じ頃に出会ったのが、発明好きのステアと、おしゃれなアーチーの兄弟。アンソニーも含め3人は幼馴染で大の仲良し。この兄弟ももれなく、キャンディに惹かれるのですが、脈なしとわかると、その後は良き友人としてキャンディを支え続けます。しかし、悲劇は起こります。第一次世界大戦が勃発すると、ステアは志願兵として戦闘機のパイロットになります。そして敵のパイロットに撃ち落とされ、命を落とすのです。

 ステアが撃たれるシーンは、セリフも効果音も一切ありません。色を失ったステアの横顔にだらりと血が流れ落ちると、直後に飛行機がバリバリ音を立てて墜落。静から動へと移る様子は、さながら映画のようです。そして真っ逆さまに落ちていく最中、ステアは夕焼けを見ながら愛する恋人・パティを思い出します。「このかぎりなく広がる夕やけをいつかきみに見せてやりたい」。号泣です。

 この後、アンソニーとステアという最愛の仲間を失ったアーチーが、2人を思い出しながらバグパイプを吹くシーンがあるのですが、これもまた切ないんですよね。涙なしには読めません。

③恋人テリュースとの涙の別れ

 アメリカを離れ、ロンドンの聖ポール学院へ留学することになったキャンディは、そこでテリュース(通称テリィ)に出会います。不良のテリィと正義感の強いキャンディは、事あるごとに衝突しますが、お互いを深く知るうちに、やがて強く想い合うように…。キャンディにとって、初めての恋人といえる人物です。

 ところが、テリィに片思いをしていたイライザの策略によって、2人は共に退学に追い込まれてしまいます。キャンディは看護学校へ、テリィは役者になるため劇団に入り、2人はバラバラに。

 しかし、運命が再び、キャンディとテリィを引き合わせます。お互いまだ強く想い合っていることを認識した2人は、ようやく幸せに…と思いきや、そうは問屋が卸しません。

 舞台の稽古中、テリィの頭上に照明機材が落下する事故が。その瞬間、女優のスザナが身を挺してテリィをかばい、自身は足に大怪我を負ってしまうのです。かねてからテリィに恋をしていたスザナ。「あなたのせいでケガをしたのだから、一生側にいるべきだ」とテリィに脅しをかけます。テリィはスザナを見捨てることができず、最終的にはキャンディとの別れを選ぶのです。

 最後の夜、立ち去ろうとするキャンディを、たまらず背後から抱きしめるテリィ。このシーンで何がすごいって、悲しい別れの瞬間なのに、2人の周りには温かい光のような、シャボンが飛んでいるのです。まるで共に過ごした青春時代の、輝きのよう…。「このまま時間が止まればいい」というテリィのモノローグに、むせび泣きました。

 それからも波瀾万丈な人生を歩むキャンディですが、物語の最後は、これからの幸せを予感させるような、素晴らしい形で幕を閉じます。

 気軽に読めなくなった『キャンディ♡キャンディ』ですが、傑作であることは変わりません。キャンディに声を吹き込んでくれた松島みのりさんに感謝を捧げるとともに、今一度『キャンディ♡キャンディ』に思いを馳せてみませんか?

文=中村未来

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