この世界で一番好きな場所は、本屋かも!? 本好きさんのための脱力エッセイ『ちょっと本屋に行ってくる。』

暮らし

公開日:2022/5/20

ちょっと本屋に行ってくる。
ちょっと本屋に行ってくる。』(藤田雅史/issuance)

〈本を読むのに最適な場所はどこかといえば、それはお風呂だ〉という一文が、湯船につかって本を開いた瞬間、視界に飛びこんできて、「あ、たぶん私はこの本が好きだ」と思った。『ちょっと本屋に行ってくる。』は、著者の藤田雅史さんが「BOOKSELLERS CLOTHING issue (イシュー)」のウェブサイトに連載していたものをまとめた、本にまつわるエッセイだ。

 イシュー自体が「これから“本好き”になるであろう人にまで、幅広く、楽しく、年齢・性別・国籍問わずご愛用いただきたい」というコンセプトで設立されたアパレル・グッズブランドというだけあって、藤田さんの文章も押しつけがましい熱量が全然なくて、好きな小説のおすすめなどもほとんどされることなく、ただ“本と一緒にある暮らし”について感じたことが、穏やかに綴られている。

 読みながら本を濡らすことはまずないが、うっかり落としてしまうことはあって、沈みゆくその本を救出するときは、全裸であることを差し引いても、とてもかなしい。そんなことが書かれているのを読みながら「ある、ある」と思わず笑ってしまった(気を引き締めたおかげか、藤田さんの本は、落とさなかった)。もしかしたらその描写に、憤慨する本好きの人もいるかもしれない。だけど、たとえば、できるだけなくしてもいいレシートをしおりがわりに挟むこととか、本屋さんをまわっても目当ての本が見つからなかった場合はAmazonで注文してしまうという告白とか、表紙の写真がこわくて読みたい本を買うことができずにいることとか、随所にちりばめられている藤田さんのしょうもなさが、本を手に取ることへのハードルを下げてくれるし、「そうだよね、それくらいの感じでいいんだよね」と根っからの本好きとしても、ホッとするところがある。

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 一番「わかる~!」とうなずいたのは、旅先に持っていく本を選ぶ話。読みかけの上巻を持っていくなら下巻も、小説だけだと飽きるかもしれないからノンフィクションも、とあれこれ考えた結果、旅程にみあわない量になって読みきれないだけでなく、旅行中、現地にまつわる新しい本を買ってしまい、荷物が重量オーバーし、空港で超過料金を取られてしまう藤田さん。国内旅行中、本が増えすぎて自宅まで郵送したことのある身としては、共感しかない。

 お気に入りのしおりとかブックカバーを常用し、旅先の情緒に合った本を1冊だけ持ち歩き、噛みしめるように読む。なんて、丁寧な暮らしには憧れる。でも日常は、そんなに美しいことばかりではないし、どれほど読みたい本が積みあがっていても“読まない”選択をせざるを得ないときだって、多い。そんな私たちのしょうもなさも、藤田さんは肯定してくれる。

 本好きはもちろん、ふだんあまり読まないという人にはぜひ本書を手に取っていただきたい。押しつけがましい熱量はないけど、本への深い愛情に満ちていて、始終楽しそうに本について語る藤田さんの文章に触れるうち、ちょっと本屋に行ってみよう、と思えるはずだから。

文=立花もも

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