シリーズ通じてのヒットには、理由がある。『四つ子ぐらし』が内包する、3つの魅力

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/22

四つ子ぐらし(11)
四つ子ぐらし(11) 転校生はいとこでアイドル!?』(ひのひまり/角川つばさ文庫)

 新刊が出ると大手取次や書店の月間売上ランキングでベスト10入りする――児童書の中で、ではなく、すべての書籍のなかで、だ――児童文庫作品が、ひのひまり『四つ子ぐらし』(角川つばさ文庫)だ。

 ある事情から別々の家庭環境で育てられていた一花(いちか)、二鳥(にとり)、三風(みふ)、四月(しづき)の4人が、実は四つ子の姉妹だったことが知らされ、国による「中学生自立支援計画」に参加し、ひとつの家で大人抜きの、四つ子だけの共同生活を始める。

『四つ子ぐらし』の魅力はなんだろうか。3つ挙げてみたい。

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①四つ子のいろんな姿が見られる楽しさと「子どもだけの生活」の特別感

 学校新聞で「四つ子見分け表」が作られるくらい、四つ子にはそれぞれ見た目や口調に特徴がある。そんな四つ子がおそろいコーデをしたり、パジャマパーティーで雑魚寝をしたりと、髪型や服装を変えてさまざまな姿を見せてくれるのが楽しい。外見やしゃべり方を変えれば「違う自分になれる」ことを読者に示し、ある種の変身願望を叶えてくれる。

 しかも彼女たちは基本的に大人のいない空間で、子どもだけで生活している。修学旅行などで、同級生だけで寝た夜の特別な感覚を記憶している人も多いだろうが、それがずっと続いているような感じが味わえる。

②何があっても身近に信頼できる存在がいることのすばらしさ

 四つ子同士は強固な結びつきがある一方で、両親の不在および、巨大企業の創業家に生まれた母の家庭の複雑な事情からくる干渉があり、また、学校などでさまざまなトラブルに直面もする。

 しかしどんな出来事が起こったとしても、身近に、家族であり、なんでも相談できる同級生でもある存在がいることの安心感が、作品を貫いている。

③思春期に起こる出来事、湧いてくる感情をどう受けとめればいいかを教えてくれる

 三つ目にして最大のものがこれだ。たとえば、会えないでいる母親らしき人からの手紙が届き、四つ子は母親の大切さを互いに吐露し、共有する。しかし現実世界では、おそらく思春期に親への想いを正面切って身近な同年代の人間と話し合う機会は、なかなかないだろう。

 思春期になって改めて「家族ってなんなんだろう?」「親やきょうだいとの関係はこれでいいのか?」と思い始めた読者に対して、まさに家族について問い直す作品が『四つ子ぐらし』だ。

 また、恋愛感情や恋愛をめぐって起こる出来事の扱いも特徴的だ。

 たとえばある人物が、同性の年上への存在への憧れの気持ちが「初恋だった」――性別は関係ないと語る場面をさらりと描き、あるいはある男の子へ抱いている感情が恋愛感情なのか友情なのかわからないことを描いたり、「推し」への想いと恋愛感情がどう違うのかを扱ったりもする。「恋愛感情」を、説明しなくていい当たり前のもの、ステレオタイプなものとして扱わず、初めて直面するがゆえに整理しきれない、曰く言いがたいモヤモヤしたものとして、丁寧に心情をすくっていく。

 また、恋愛が二者間で閉じたものではなく、恋をすると周囲の人間関係がどう変わるかも示してくれる。四つ子の次女・二鳥は「彼氏ができたらいっしょに帰ったりできひんようになるんやで」と、姉妹に恋人ができることはさみしくてイヤだと本心を漏らす。恋愛をするようになると家族や友人との関係も変わっていく可能性があること、そのとき何に悩み、どう振る舞うという選択肢があるのかを『四つ子』は示す。

 いじめのような重い問題も描くが、やはり書き割り的な悪役は登場せず、いじめに関わる側の心理を、本作では突っ込んで描いている。

 思春期に多くの人が悩むであろう難しい事柄を、エンタメの枠から外れずに、しかし心の揺れ動きにリアルさを感じさせる筆の運びで描く手つきは、「ちゃお」に2019年まで連載され、「小学生女子のバイブル」と呼ばれたまいた菜穂の少女マンガ『12歳。』に通じるものがある。

 もちろん、『四つ子ぐらし』では、同世代の男性アイドルとの関わりや「出生の秘密」といった娯楽ドラマ的な要素も魅力ではある。けれどもやはりそれだけでなく、子どもから大人への移行期の入り口にいる世代に寄り添う心理描写の掘り下げこそが、『四つ子』が頭ひとつ抜けて特別な作品だと読者に思わせる部分だろう。

文=飯田一史

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