自分が食べたいものを、楽しく作って幸せに。文章も“おいしい”エッセイ系レシピ本

食・料理

公開日:2022/6/9

いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん
いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(今井真実:著、今井裕治:写真/左右社)

 レシピ本を開くと、作らなければいけない圧を感じて苦しい……。毎日のご飯作りで、そんな気持ちになる人はきっと多いはず。

 けれど、『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(今井真実:著、今井裕治:写真/左右社)なら、その憂鬱は軽くなるかもしれない。なぜなら、本書は心に栄養を与えてくれる「読むレシピ本」だからだ。

 著者の今井真実さんは、「作った人が嬉しくなる料理を」の考えのもと活動している料理家。メディアプラットフォーム「note」に綴るレシピやTwitterでの発信が注目を集めており、SNSや各種媒体では「今井さんのレシピが間違いない」と称賛の声があがっている。

 本書には、旬の食材を使い、いつもの食材のおいしさをより引き出す34のレシピと食にまつわる書き下ろしエッセイを、美しい写真と共に収録。単にレシピを知れるだけでなく、著者の言葉から元気を貰えるサプリのような料理本となっている。


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旬の食材をとことん楽しむ「夏レシピ」

 蒸し暑い日が続くこの時期は、さっぱりしたものが恋しくなる。そんな時にぜひチャレンジしたいのが、斬新な組み合わせの「シャインマスカットとブルーチーズのサラダ」。

 みずみずしくてちょっぴり刺激的なこの一品には、かぶも入っているために食感が楽しい。味付けはオリーブオイルのみなので、ちょっとしたおつまみがほしい時にもおすすめだ。

いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん

 そして、個人的に驚かされたのが、夏野菜であるきゅうりを揚げ焼きした「きゅうりのフライ」。著者いわく、ポイントは衣をしっかりつけること。衣がはがれやすいため、あまり触らず、皮の方を下向きにして揚げ始めるのがコツだという。

 味付けはソース、レモン、カレー塩などお好みで。生で食べることが多いきゅうりの新しいおいしさに気づける一品となっている。

いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん

 なお、食卓にもう1品プラスしたい日は「みょうがの味噌焼き」を。縦半分に切ったみょうがに味噌を塗り、オーブントースターで焼くだけで完成するこの副菜は、味噌によって味わいが変化。著者は、様々な味噌で楽しんでほしいとアドバイスしている。

いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん

 旬の食材には、こんな楽しみ方があったのか……。そんな嬉しい驚きを、本書で得てみてほしい。

「私」を笑顔にするご飯作りを

 レシピもさることながら、エッセイもおいしそう。そう思わせられる全14篇のエッセイには、食への愛がたっぷりつめこまれており、思わず目尻が下がる。

 著者は季節の食材にまつわるエピソードや普段のご飯事情、食を通した家族との思い出などをユーモラスに紹介。その中に出てくる調理工程の描写や料理への感想が、なんともおいしそうで読んでいるとお腹が空いてくる。

 また、ふきのとうを「春のしるし」と表現するなど、著者の言葉からは食材への愛が感じられて温かい気持ちになった。きっと、こうした気持ちが根底にあるからこそ、著者のレシピは多くの人の食欲をかきたてるのだろう。

 なお、エッセイからは「自分を幸せにするご飯作りのコツ」も学べる。ハッとさせられたのが、パートナーや子どものためではなく、自分のためにご飯を作っているという著者の考え。

パートナーや子どもの笑顔を思い浮かべ、料理をするとき、それは幸せな時間でもある。しかし、期待した反応と違うとつまらなくなってしまい、それが続くと「虚しさ」に繋がっていく。だからこそ、私は自分の食べたいもの、作りたいものから今日の献立を決める。私の幸せは、私が守る。これが料理をする人の特権だ。

 力強いこの言葉は、「家族みんながおいしいと思えるものを」と考え、自分をすり減らしながら料理をしている人に刺さる。

私は食べることと同じくらい、料理をすることが好きです。それは作るという行為が好き、というのとは少し違います。食べたいものを、自分の手で作れるという自由が好きなのです。

 そう語る著者は忙しさに追われ、四季を楽しむ時間が持てていない人に、本書の風景写真を楽しんでほしいと思っている。

いつかの私は、青空を見ることも忘れ、寒い暑いでしか時間の移ろいを感じることが出来ませんでした。「季節を楽しむ」ということと、ふだんの生活が結びつかなかった。(中略)しかし、それは頑張っている証拠でもあります。季節の景色の写真はそんな方に、少し肩の力を抜いて欲しくて、載せてもらいました。

 家事や育児、仕事に忙殺されているけれど、今日も自分のためにおいしいご飯を作ろう――。そう思わせる力が、このレシピ本にはある。

文=古川諭香

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