具志堅用高氏、又吉直樹氏ほか…宮沢和史氏が、“沖縄を生きる”10人との対話と『島唄』の30年を綴った『沖縄のことを聞かせてください』

文芸・カルチャー

更新日:2022/5/23

沖縄のことを聞かせてください
沖縄のことを聞かせてください』(宮沢和史/双葉社)

沖縄のことを聞かせてください』(双葉社)は元THE BOOMの宮沢和史のエッセイ・対談集だ。本書の著者、宮沢氏が歌ったTHE BOOMの代表曲『島唄』は、多くの人が口ずさむことができるだろう。この曲は宮沢氏がひめゆり平和祈念資料館を初めて訪れたときの強い衝撃から生まれたもので、「学徒隊の方々に聴いてもらいたい」という思いが込められた鎮魂歌だ。1992年に沖縄で先行してシングルが発売されたことで火がついた『島唄』は、全国で200万枚に迫る大ヒットとなって日本中に琉球音階のメロディを流すことになった。

 しかし、宮沢氏には「本当に、この歌を作ってよかったのだろうか」という葛藤もあったという。沖縄に縁もゆかりもない、戦後生まれのヤマトの人間が戦争のことを琉球音階で歌っていいのか、と。実際に沖縄民謡の関係者などからの批判も多くあったそうだ。しかし、この歌を作ったことで「一生沖縄と関わっていく」という思いが芽生えた宮沢氏は、実際に現在に至るまで30年にわたって沖縄と深く密接に関わり続けてきた。本書はそうやって真剣に沖縄と向き合ってきた宮沢氏の真摯な思いが496ページ分、ぎっしりと込められた一冊だ。

 沖縄の声、沖縄が僕たちを見つめるまなざし、そういったものを少しでもヤマトへと運び、ヤマトの側から少しでも変えていくことも、この国で少しだけよく通る声を授かった僕の仕事なのかもしれないと思う。

 対談相手となるのは、具志堅用高氏(元ボクシング世界王者)、又吉直樹氏(お笑い芸人、作家)、大工哲弘氏(八重山民謡歌手)、中江裕司氏(映画監督)、野田隆司氏(桜坂劇場プロデューサー)、山城知佳子氏(現代美術家)、平田大一氏(演出家)、島袋淑子氏(元ひめゆり学徒隊・ひめゆり平和祈念資料館前館長)、普天間朝佳氏(ひめゆり平和祈念資料館館長)、西由良氏(「あなたの沖縄 コラムプロジェクト」主宰)の10人。沖縄戦の実体験者である90代の島袋氏から「自分は沖縄の痛みを共有していないんじゃないか」という後ろめたさを感じることがあるという20代の西氏まで、それぞれの人生にある「沖縄」を聞き、語り合っていく。苦難の歴史、土地の記憶、民謡に代表される豊かな芸能文化、差別と阻害への怒りと悲しみ、同胞と故郷のシマへの思い、戦争――そこから見えてくる沖縄の姿は、実に多様だ。

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みんなが最初にかけてくる言葉が「おめでとう!」じゃないんです。「ありがとう!」なんですよ。沖縄は同じ苗字の人が多いから名前で呼ぶんだけどね、みんなが「用高! ありがとう!」って言うんだよ。これは嬉しかったね……(具志堅用高氏)

沖縄がいかに、本土の好きなようにされてきたか。こう言うとすぐイデオロギーだと言われるけど、そういうことじゃなくて、「おかしいものはおかしいじゃないか」というだけのことなんだよね。それを、きちんと「こういうことがあったんだ」と伝えていくのも、自分たちの責任だと思っていますよ。(大工哲弘氏)

なんというか……なんてすごい島に生まれてしまったんだ、と思ったんですよ。この島では、心という目に見えないものを、こんなふうにして形にすることができるのか、と。(平田大一氏)

どんなことがあっても、戦争はだめなんです。(島袋淑子氏)

 宮沢氏もまたこうした対談と8編のエッセイを通し『島唄』から始まった自身と沖縄の関わりとその変化、自身が考え続けてきた沖縄について、さまざまなテーマで語っていく。そこで繰り返されるのは“水脈”という言葉だ。沖縄にはヤマトが失ってしまった歴史、文化、生活に根ざした記憶の水脈がある。そうした沖縄の水脈について知り、その豊かさに触れることは読書体験として純粋に面白く、驚きがあり、そして無知を思い知らされる。それは自分自身の沖縄観、自分自身の水脈について考えるきっかけになるはずだ。力の入った大量の注釈もまた沖縄の歴史、文化を知るための良いガイドになる。

 本書は沖縄の水脈を継承していこうとする現場を語るものであり、水脈をつなげる行為そのものでもあると感じた。沖縄の日本復帰50周年の今年、読む意味と価値のある一冊だ。

文=橋富政彦

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