BTSのRMが楽曲のモチーフにしたのでは、と話題に。親友を事故で亡くした女子中学生の再生の物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/29

ある日、僕が死にました
『ある日、僕が死にました』(イ・ギョンヘ:著、小笠原藤子:訳/KADOKAWA)

 BTSのRMが楽曲のモチーフにしたのではとファンの間でも話題となり、邦訳版が待ち望まれていた『ある日、僕が死にました』(イ・ギョンヘ:著、小笠原藤子:訳/KADOKAWA)。韓国版の帯には「BTSのRMさんが読んだ本」と推薦文も掲載され、BTSのファンにも長く愛されてきた。

 2004年に発売されてから、日本を含む4か国で翻訳出版されて、累計40万部を記録するロングセラーに。

累計40万部を記録するロングセラーに

 本書は著者のイ・ギョンヘさんが高校生のバイク事故のニュースを見て、若くして命を落とした被害者を想いながら書いた青春小説だ。

 当たり前の日常の中に突如として現れた「死」。誰にでも起こり得る大切な人との別れをテーマにした本作は、涙なしでは読み進めることができない。

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バイク事故で亡くなった親友が遺した日記に、「ある日、僕が死にました」の一文をみつける

 中学生3年生のユミは、バイク事故で亡くなった親友・ジェジュンが遺した日記を彼の母親から受け取る。

 どうしてもユミに読んでほしいというジェジュンの母たっての願いで、ユミが日記帳を開く。そこには「ある日、僕が死にました。僕の死は何を意味するのだろうか?」の一文が綴られていた。

 親友の死は実は自殺だったのではと思い、動揺で涙を止めることができないユミに、ジェジュンの母は、ユミに日記を読んでもらえないかと頼む。

 ユミは日記を預かったものの、日記を開くことができないまま、学校では考課テストがはじまる。大切な人が亡くなったのに、非情にもいつもと変わらない日々を送っている自分に罪悪感を覚えてしまう。

 ユミはジェジュンの死の真相を探るべく、日記を読み進めていく。転校してクラスに馴染めなかったとき、声をかけてくれたジェジュンがユミの唯一の親友だった。ふたりはテストの点数や恋愛の悩みを共有してきて、ユミにはまさかジェジュンが自殺をするなんて信じられなかった。

 授業やテストは、ジェジュンが亡くなった後でも変わらず行われて、大切な人を失ってからも日常は続くことにユミは打ちのめされる。

 ふたりで一緒に過ごした日々を思い返し、周りの人たちとの交流を経て、日記を開く勇気が湧いたユミ。日記を読み進めていくと、誰にも明かしていなかったジェジュンの本心が書かれていた。

 小柄で怖がりなジェジュンがバイクに乗った理由、そして、「死体ごっこ」という遊びにはまっていたことなど、知らなかった親友の一面が日記を通して見えてくる。

 日記に遺された「ある日、僕が死にました」の意味を知り、ユミはゆっくりと親友の死に心の整理をつけていく。

平凡な日常が実は特別なものだったと気づかされる

 作中で登場する「死体ごっこ」は、仮に今、「もし死んでしまったら」と考えるという中学3年生のジェジュンが考案した遊びだ。

 もし、今死んでしまったらと思って日々を生きると、いつもの退屈で不平ばかり言っている日常が特別なものに見えてくる。

 そのことに気づくと、現実に立ち向かうべき勇気を与えてくれ、身近な人や日常を大切にしようと感じさせられる。

 本書を読んだBTSのファンのひとりは、「RMさんの楽曲『Always』は、人生で辛かったときの気持ちをそのまま残したという歌詞です。この本を読んで、ある日、突然自分が死んだと仮定することで、逆に強く生きていけるというテーマが歌われているようにも思えました」という。

 楽曲を深く知る手がかりになるかもしれない本作。ファンはぜひ手に取ってみては?

【著者プロフィール】
イ・ギョンヘ
晋州で生まれソウルで育つ。幼い頃、部屋で本を読んでいた経験から、小説家になる。絵本から小説まで多様な文章を書き、フランス語と英語の本を韓国語に訳す仕事をしている。

 

小笠原藤子
上智大学大学院ドイツ文学専攻「文学修士」。大学でドイツ語講師をしている。訳書に、『私が望むことを私もわからないとき 見失った自分を探し出す人生の文章』(ワニブックス)などがある。

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