映画『バブル』ノベライズ版を武田綾乃が担当! 重力が壊れた東京を舞台に繰り広げられるラブストーリーの感動再び!

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/25

小説 バブル
小説 バブル』(武田綾乃/集英社)

 世界を一瞬で変えてしまうような出会いがある。初めて世界を知り、本当の自分を知る。そんな劇的な出会いを描き出すラブストーリーが、2022年5月に劇場公開された『バブル』だ。監督はアニメ『進撃の巨人』などで知られる荒木哲郎氏、脚本はアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などの虚淵玄氏、キャラクターデザイン原案は、漫画『DEATH NOTE』などの小畑健氏。名だたるクリエーターたちの力で生み出されたなんとも豪華な物語なのだ。

 さらにノベライズ版『小説 バブル』(武田綾乃/集英社)も豪華な出来栄えだ。担当したのは、「響け!ユーフォニアム」シリーズや「君と漕ぐ」シリーズなどの著作で知られる武田綾乃。ノベライズ版では、少年と少女のかけがえのない時間が美しく描き出されていく。特に、ノベライズ版では映画版以上に、登場人物たちの過去やその心情が詳らかに描かれ、読む人の心を強く揺さぶる。

 舞台は、世界に降り注いだ泡〈バブル〉により、重力が壊れ、土地の大部分が水没してしまった東京。家族を失い、行くあてのない少年たちは、人が住む場所ではなくなったこの街で、「バトルクール」というゲームに興じている。「パルクール」がベースとなったこのゲームは、勝てば支援物資を手に入れることができるため、少年たちの生活にも影響を与える重要なものだ。渋谷を拠点とするチーム「ブルーブレイズ」のエースプレイヤーである少年・ヒビキはある時、重力が歪む海へと落下する。彼を助けたのは、不思議な力を持つ少女・ウタ。彼女は何者なのか。ヒビキとウタの出会いは、やがて世界を変える大きな事態を巻き起こしていく。

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「バトルクール」のシーンはとにかくカッコいい。重力の歪んだ世界でビルからビルへとチームで駆け回るその描写は臨場感たっぷり。スリル満点の映像が眼前に思い浮かぶかのようでワクワクさせられる。身寄りのない「ブルーブレイズ」のメンバーは、渋谷に流れ着いた故障船で寝食をともにしている。心に傷を抱えながらも前向きに日々を過ごす彼らの暮らしはまさに青春そのもの。爽やかな日々がなんともまぶしい。

 だが、ヒビキは誰と一緒にいてもずっと孤独を感じていた。幼い頃から聴覚過敏に悩まされてきた彼は、ずっと人とは違う自分を嫌い、喜びや幸せを掴むことを拒絶してきた。だが、そんなヒビキをウタは少しずつ変えていく。ふとした瞬間に目が合う喜び。辛さを分かち合えることの心強さ。彼女との出会いで、彼は大切な人と一緒に過ごす日々がこんなにも楽しいのだと初めて知るのだ。

「ウタが来て、初めて俺は俺になれた」

「私も、ヒビキに会うまで何も知らなかった。嬉しいって気持ちも、寂しいって気持ちも……生きているって、こんなに凄いことなんだってことも」

 荒木監督は「『ノベライズ』と『映画』はふたつでひとつ。合わさってより大きな『世界』を表現し得ている」と語るが、まさにその通りだろう。映画版で「バブル」の美しい世界を全身で体験するのも、ノベライズ版で映像を想像しながら登場人物たちの胸のうちに触れるのも、どちらも深い感動を私たちに与えてくれる。両方を体感すれば、新たな発見がたくさんある。すでに映画を観たという人はもちろんのこと、まだ観ていない人にもオススメ。この美しくも切ない繊細な物語にぜひとも触れてみてほしい。世界を変えていく壮大なラブストーリーにとにかく惹き込まれてしまうことは間違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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