推しが尊すぎて… ツッコミどころ満載の超本格(?)時代劇コミック『めんへら侍』

マンガ

公開日:2022/6/11

めんへら侍
めんへら侍』(原作:あかほりさとる、漫画:松本救助/白泉社)

 時は元禄13年――。五代将軍・徳川綱吉が治める太平の江戸を舞台に、一つの超本格(?)時代劇が幕を開けた!

 先日発売された『めんへら侍』(白泉社)コミックス第1巻は、『転生魔王とポンコツ勇者~魔王はカッコよく倒されたいのに、勇者がすぐ全滅しやがる~』の原作・あかほりさとる氏と、『魔女は三百路から』などでお馴染みのマンガ家・松本救助氏のタッグが手掛ける注目作。

©あかほりさとる・松本救助/白泉社

 物語は、涙を浮かべながら人を斬る浪人のワンシーンから始まる。シリアスかつ重厚な物語の幕開けを予感させるが、騙されてはいけない…。同作の主人公は極度の人見知りで、日々“被害妄想”に明け暮れる内気な侍・鷹松左衛門尉伊綱(たかまつさえもんのじょういづな)。左門の通称で知られる彼の趣味は、茶屋の“看板娘”巡りである…。

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 最推し看板娘・お蜜ちゃんとの触れ手会(握手会)に喜々として馳せ参じる左門。しかし自身の被害妄想ゆえに、たった5秒の握手すらまともに交せない。「推しが尊すぎて今日も……し…死にたい」などと漏らす左門に、思わず「これ本当に江戸時代の物語か?」とツッコミたくなってしまう。

 だが安心してほしい。タイトル通り“メンヘラ”気質たっぷりの左門ではあるものの、カッコ悪い姿を見せたままでは終わらない! お蜜ちゃんの茶屋に因縁をつける暴漢に対し、光と見紛うばかりの鮮やかな剣技を披露。見事にお蜜ちゃんを救ってみせる。

©あかほりさとる・松本救助/白泉社

 なぜこれほどの剣技を持ち合わせているのか…。実は左門は、大名にも並ぶ「筆頭旗本」。ちなみに江戸時代の大名や旗本の屋敷では何よりも“格式”が大切とされ、その領地の石高(こくだか)などで違いがあったという。左門の家の門構えは、十万石の大名と同じ格式。果たして左門の正体は、江戸幕府五代目征夷大将軍・徳川綱吉と膝を突き合わせて言葉を交わせるほどの人間だったのだ。そしてなんと、天下の悪法と言われる「生類憐れみの令」にも関わっているようで…。

 時代劇とは思えない軽快かつコミカルに展開していく物語だが、歴史の知識が要所要所に散りばめられており、思わず「へぇー」と声が出てしまう。堅苦しくないので、すんなりと頭に入ってくるのが驚きだ。マニアックな知識も登場するので、歴史好きにはたまらないだろう。またコミックス第1巻には、播州赤穂藩の浅野内匠頭長矩、高家旗本の吉良上野介義央の姿が。歴史に詳しくなくとも、「忠臣蔵」を想起させる2人の登場には胸が躍るはず。

 メンヘラ気質で被害妄想甚だしい左門を中心に物語が描かれていくため、基本的にはコメディー調。しかし江戸時代を舞台にしているなら、物語は“喜劇”だけでは済まされない。大きな“歴史のうねり”の中で、めんへら侍・左門はどう生きていくのだろうか。

 時代劇の魅力は、遅かれ早かれ大きな事件が待ち受けているところ。とはいえ「なんちゃってでもない時代劇」と題された『めんへら侍』は、今後の展開が全く予想できない。歴史好きはもちろん、あまり詳しくないという人も、ぜひ読んでもらいたい一冊である。

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