給与事情から苦情対応まで! 元鉄道員の交通系YouTuberが明かす「駅員の仕事」

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/8

怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です
怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(綿貫渉/KADOKAWA)

 理想の新生活と違っている…。仕事に慣れ始めた今、そんな憂鬱と格闘している社会人は意外に多いはず。

 けれど、『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(綿貫渉/KADOKAWA)にて、不可抗力だらけの世の中でメンタルのバランスを保ちながら働く駅員さんの日常を知ると、明日を乗り越える力が湧いてくる。

 著者は、チャンネル登録者数8万人超え(※2022年6月時点)の交通系YouTuberで元鉄道員の綿貫渉さん。本書では、1日に10万人が利用するとある駅で働いていた時の経験を、社会派エッセイとして公開。

 鉄道員の知られざる給与事情や勤務形態と共に、駅の裏側で起きているプチ事件も赤裸々に明かす。


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駅長になると給料が減る! 逆転現象が起きる駅員の給与事情

 綿貫さんいわく、駅員は営業係という平社員からスタートし、主任、助役、駅長とステップアップしていくのが標準的キャリアなのだそう。

 主任になると、部下とほぼ同じ仕事内容なのに、給料は約2倍に。助役に昇進すると駅員のマネージメントが仕事の中心になり、多少給料が増えるのだとか。

 ならば、駅長はさぞ高給取りなのではと思うが、実は助役よりも給料が少なくなるという。なぜなら、駅長になると土日休みの定時勤務(9時~18時頃)となり、泊まり勤務がなくなるから。基本の給料が増えても、深夜の割増賃金や宿泊手当がないので、給料が減ってしまうのだそうだ。

 一般企業でも起こり得る、この逆転現象。管理職の方はつい、自分の姿を重ね合わせ、何とも言えない気持ちになってしまいそうだ。

痴漢が発生! 駅員には何ができる?

 駅で発生するトラブルの中で真っ先に頭に浮かぶのは、痴漢ではないだろうか。実際、綿貫さんも何度か現場に立ち会ったという。

 とある平日の朝ラッシュ時に起きた痴漢事件では、泣いている女子高生と共に40代くらいの男性が、加害者と思われる20代くらいの男性を連れて改札へやってきたそう。

 こんな時、駅員には何ができるのか。実は痴漢被害を申告されたとしても、基本的には駅員は警察を呼ぶしかないため、警察官が到着するまでの間、加害者とされる人物が逃げないよう、目を光らせているのだそう。

 ただし、綿貫さんによれば、逃亡する場合は駅員がいる改札口に来る前にホーム上から線路へ立ち入って逃げることが大半で、駅員のもとまで大人しく来た場合は逃げることが少ないのだとか。実際、綿貫さんも自分のもとへ来た加害者が逃げる素振りをするところは一度も見たことがないという。

 なおこの事件では、当初加害者は犯行を否定していたが、到着した警察官と話した後、罪を認め、パトカーで連行されていったのだとか。

 辛い思いをした被害者を目の当たりにしてきたからこそ、綿貫さんは最新の技術で痴漢の撲滅を願う。苦しむ被害者や冤罪をなくすためにも、その想いが実る日が早く来てほしい。

乗客を納得させた「乗り越し精算時」の苦情対応

 さまざまな駅員業務をこなしてきた綿貫さんが最も苦手だったというのが、乗客からの苦情対応。

 綿貫さんがいた駅では複数の駅員で交代しながら改札口を担当していたものの、基本はひとりで対応。その中で悩まされたのが、乗り越し精算時の苦情だった。

 乗り越し精算は運賃計算に関するルールが複雑すぎて、通常時の運賃よりも高くなることがあるため、揉めやすかったのだ。

 綿貫さんの駅では50円ほど高くなるケースと300円くらい高くなるパターンの2つが頻出。乗客から「いつもはこの金額じゃない! 詐欺だ!」と言われたこともあった。

 しかし、綿貫さんは苦情を言いたくなる乗客の気持ちを想像し、打開策を考案。「私もおかしいと思います」との言葉を添えつつ、独断では料金を安くできないことを説明するようになった。

 すると、乗客は納得してくれやすくなり、ねぎらいの言葉もかけてくれるように。相手が抱いた感情に理解を示しつつもルールを貫き通す綿貫さんの姿勢には、多くの学びが詰まっているように思え、自分の仕事への姿勢を振り返りたくなった。

駅員は乗務員と比べて乗客と接する機会が多く、乗客の対応を通じて多くの感情が行き交う。(中略)見知らぬ人と交流することのない東京で急に見知らぬ乗客から怒鳴られたりする駅という場所は、なかなか特殊であり面白い場所だと思う。

 そう語る著者は、駅員経験を通し、鉄道会社と乗客の考えには溝があることを痛感。認識の差が乗客の不満や苦情に繋がり、鉄道会社で働く従業員にとっても負担となっているのではないかと考えている。

 そうした溝を埋めるためにも、本書で駅員の仕事内容や発生しやすいトラブルを知ることは重要。鉄道員たちの苦悩に目を向ければ、いつも使っている駅は、より利用しやすいものになっていくのかもしれない。

文=古川諭香

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