買い物好き共感の爆笑エッセイ! 購買意欲が止まらないエッセイストの「お買い物記録」

文芸・カルチャー

更新日:2022/6/16

「捨てなきゃ」と言いながら買っている
「捨てなきゃ」と言いながら買っている』(岸本葉子/双葉文庫)

 余計なものが極力ないシンプルな部屋やミニマリストのような暮らしに憧れるけれど、ふつふつと湧き上がってくる物欲に負けてしまう自分も案外好き。

 そう思っているお買い物好きさんが爆笑する、共感必至エッセイがある。それが『「捨てなきゃ」と言いながら買っている』(岸本葉子/双葉文庫)だ。

 本書は「ちょっと早めの老い支度」を気にしながらも購買意欲が止まらない著者の日常を綴った、大好評お買い物エッセイの第5弾。お上品な毒舌が冴えわたる“買い物記録”となっている。

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失敗談も披露! 人気エッセイストの「買う」を楽しむ暮らし

 スティック型掃除機や炊飯器といった実用的なものから、シェイプアップ用フラフープまで、著者が購買意欲をそそられるもののジャンルは幅広い。その中でも、ついクスっとしてしまったのが、帽子への好奇心が爆発してしまった時のエピソード。

 ある日、著者は出張に同行した女性が被っていたニット帽に興味が湧いた。白っぽいケーブル編みで、てっぺんには毛糸のポンポンがついているそのニット帽は暖かそうで、小顔効果もありそう。そこで、防寒と小顔効果を期待し、冬の帽子に初挑戦することに。

早速、出張の帰り、新宿駅にある帽子店へ。同行者のものとそっくりなニット帽を店内で発見し、気分があがった。

 ところが、被ってみると、あまりの似合わなさと小顔効果のなさに愕然。声をかけてきたモデルのような八頭身の女性店員に侘びながら、帽子を押しつけ、逃げるように退散した。

 けれど、これで諦めないのが著者の強さ。次は若者の街ではなく、大人の街で帽子を探そうと銀座へ。偶然目にした赤いベレー帽に惹かれ、とある店の中へ。

 だが、お目当てのベレー帽はちょうど中国人カップルが試着し始めたところで、手放してくれそうにない。

私はかっこつけである。(中略)このときも「帽子についてはシロウトだけど、困った客ではありませんよ」と示したい気持ちがはたらき、奥にいた店主らしき男性の前へ静々と進んだ。(引用/p.35)

 落ち着いた物腰の店主から勧められたのは、ワインレッドの中折れ帽と赤系のハンチング。試着し、中折れ帽のほうを気に入ったが、値段を尋ねると、なんと6万円超えだった。

 著者は驚いたものの、「そうでしょうとも」という雰囲気で深く頷き、お礼と「検討いたします」の言葉を残して、店外へ。汗がひいてから感じたのは、中折れ帽のようなツバがない、ベレー帽の勝手の良さだった。

どんな店でも恥をかきながらも、収穫はある。漠然と「帽子」だったのが、ベレー帽に定まってきた。(引用/p.38)

 そんな気づきを得た後、偶然にも地元のデパートに期間限定のベレー帽店が出現。早速、購入を目論み、足を運ぶ。だが、これまで訪れた店よりも明るい店内で試着をした際、鏡に映る自分の顔の形状や質感に驚愕。

 動揺からおしゃれなものを買う気にはなれず、かといって、店員に勧められて何種類も試着したため、引っ込みがつかなくなり、結局、無難なグレーのベレー帽を1万4000円で購入してしまった。

このまま値札を外さずに買取店に持っていく考えがちらとよぎるが、いえいえ、それは敗北の思想。生かす道は必ずあるはず。かぶり方を、まずは研究することだ。それまでの間はと、クローゼットにしまってある。(引用/P.40)

 本書には、こうした失敗談が多数掲載されているため、思わずニヤっとしてしまう。同時に、自分がかつて落ち込んだ買い物の失敗も傍から見れば、微笑ましいものなのでは……と、少し心が慰められる。

 著者はネットで商品の情報を調べ、ひとつひとつの物ととことん向き合いながら、「買う」という行為を楽しんでいる。だからこそ、語られる「買い物談」は味があり、面白いのだろう。自分もあくなき探求心を持って、物とのストーリーを楽しみながら、購買意欲を満たしていきたいと思わされた。

 そういえば私、気になっていたものがあったんだっけ……。読了後、そう思い、通販サイトにアクセスしたくなるのは、きっと筆者だけではないだろう。

文=古川諭香

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