笑えるけどキュンもある! 田舎の高校生カップルによるクセが強すぎるラブコメ『白山と三田さん』

マンガ

更新日:2022/6/16

白山と三田さん
白山と三田さん』(くさかべゆうへい/小学館)

 各所で話題沸騰のマンガ『白山と三田さん』(くさかべゆうへい/小学館)をご存じだろうか。もし知らなかったなら、ぜひこの記事で覚えてほしい。

 本作はTwitterで第1話が投稿されると、たちまち7万以上の「いいね」を獲得。多くのマンガ好きが知るところとなった。かく言う本稿のライターもその一人である。

 簡単に言うと地方で暮らす地味カップルの話なのだが、とにかくキャラクターがいいのだ。個人的にコメディマンガの面白さはクセのある登場人物の総量だと思う。本作は主人公のふたりを筆頭に、次々とヤバいキャラクターが登場する。現在2巻でまだ底は見えない……。

 作者のくさかべ氏が「田舎に住んでいる人、学校に友達がいない人、変わった趣味のある人、なんでもいいので1つでも共感してもらえたら」と言っている。私はさらに「地味な高校生活を送った人」を追加したい。私がまさにそうで、本作には共感しかなかった。幅広い方に間違いなく刺さる作品なのだ。

 では白山と三田さんの魅力を少し長めに語らせてほしい。

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ラジオを聴いてニヤつく白山、M16ライフルを持ち歩く三田さんと付き合う

 白山辰彦(しろやまたつひこ)は上京することを夢みる地味な高校生だ。趣味のラジオを聴き、友人のいない学校へ行き、週5でバイトに励む日々を送っていた。ある日、倒れていた三田トシ男というおじいさんを救ったことで彼の運命は変わる。トシ男は命の恩人である白山を、真っ当な青年だと見込み、彼に孫娘の三田民子と交際してほしいと懇願する。

 白山は老人の頼みを断れず、彼女と会って付き合う流れになった。三田さんもまた、どちらかというと地味で真面目を絵に描いたような女子だ。なお「運命の出会い!」みたいな描写は一切ない。ふたりの細かい心理も描かれておらず、三田さんが「親しみやすそうな方で安心しました」と言い、白山は「僕も三田さんでよかったです」とだけ返した。この空気感を説明するのは難しいのだが、とにかくあっさり、かつ唐突に付き合い始める。

 物語は地味カップルのゆる~いお付き合いと、白山が憎む“田舎あるある”のエピソード、そして彼らをはじめ非常にクセのある登場人物たちの掛け合いを一話完結で描いていく。

 まずはクセの強い主人公、白山。前髪が特徴的なメガネ男子。勉強はしたくない、運動・スポーツがまるでだめ。友達は皆無。趣味はラジオで、一日中にやにやしながら聴いており、ついたあだ名は「ニヤ山」。彼のアイデンティティは憎むべき田舎から東京へ出ること。田舎はどこにいても誰かと会うのが嫌なのだ。なお上京は(今のところ)何の目的もなく、逃避行動であることも認識している。なお東京のこととなると、独特の笑みを浮かべながら、過剰に饒舌になる。

 もう一人の主人公、三田さん。彼女は成績優秀で、身体能力と食欲が常人離れしている。地元で顔が広く友達もいる。大好きなのは『ゴルゴ13』。公園でM16ライフルを構えて、デューク東郷ごっこ(?)に興じていた。周りの人間の形態模写が得意で、あまりミーハーではなく渋好みだ。映画『ハンニバル』で感動して泣ける。だいぶ“面白い”感性の少女である。

 クセのあるキャラクターはだんだん増えていく。三田さんの幼なじみで、彼女に異常な愛情を注ぐ千代ちゃん。白山のコンビニバイトの同僚で言っていることが訳わからない春日くん。そして本作の最強キャラかもしれない白山の姉でライダーおたくの朝子……。彼らと絡むことで地味カップルの日常はカオスになっていくのだ。

クセの強すぎる地味カップルを推せる理由

 白山も三田さんもおかしみのある、クセのかたまりだ。ページをめくるたびに会話ややりとりで笑わせてくれる。だがふたりは愉快なだけじゃなく「人間ができている」のが非常にいいのだ。お互いに(自他ともに)変わっていることを認めているが、相手を“おかしい”とは言わない。これは本作の大きな魅力だ。

 おかしな人を“ヤバい”と指摘して笑わせる、そんな作品はたくさんある。しかしそれらは読む人によっては傷つく笑いになる可能性があるのだ。だが白山と三田さんは他人にナチュラルに気をつかえる人間なのだ。ただ白山は身内には厳しいけれど。

 この優しい心づかいは、もちろんお互いにも向けられている。付き合い始めてから、ふたりのお互いへの心理はあまり細かく描かれていない。それでも伝わるものは伝わる。時には想いをストレートに口にするからだ。

 白山は「三田さんと一緒にいて、迷惑だと感じたこと一度もない」「放課後の公園で、M 16ブン回してる三田さんを見て、面白い人だなと思いました」などと、いきなり言う。

 私たち読者は「そんなこと言うの白山」「ここでぶっこんでくるの?」と意表を突かれる。彼は、ちゃんとしたラブコメの主人公なのだ。なお三田さんはこれで頬を赤らめる。思わず天を見上げ、本稿のライターはつぶやいた。

 このカップル、推せる……。

 読み始めた時にはクセのあるキャラクターと絶妙の間とテンポで、とにかく笑えるコメディ、という認識だった。でも今は、本作にしっかり気持ちをもっていかれている。前のページでただ笑えていたのに、いきなり真っ当なラブコメエピソードになる。

 地味でも輝いているふたりの未来が気になってくるだろう。ちなみに彼らの将来は作中で明示されているのだが、それは読んで確かめてほしい。そしてこの今までにないカップルコメディを、ゆるく楽しむことをオススメする。

文=古林恭

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