音信不通になった妻を、とある団体のチラシで発見! 隠された闇に迫るフリーライターを描くサスペンスコミック

マンガ

公開日:2022/6/16

スマイリー
スマイリー』(服部未定/日本文芸社)

 笑顔には場の雰囲気を明るくしたり、周囲の人を幸せな気持ちにしたりする力がある。だが、『スマイリー』(服部未定/日本文芸社)に描かれている笑顔は違う。常軌を逸した様子や恐怖が、これでもかというほど詰め込まれていて、背筋が寒くなるのだ。

 本作は、日本文芸社が発行する『週刊漫画ゴラク』にて連載中の話題作。架空の新興宗教を題材にし、教団がひた隠しにする闇に、ひとりのフリーライターが迫る、手に汗握るサスペンスコミックだ。

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いなくなった妻を宗教団体「心笑会」のパンフレットで見かけて――

 笑顔なんて、気持ち悪い。フリーライターの鴨目友司は、常々そう思っていた。鴨目は不慮の事故で娘を亡くし、絶望。妻にも去られてしまい、抜け殻のような日々を過ごしていた。

 そんなある日、薄気味悪い笑顔を浮かべる2人の女性が自宅を訪れる。彼女たちは「心笑会」という宗教団体の信者だといい、「あなた最近笑えていますか」と尋ね、パンフレットを手渡して勧誘をしてきた。

「心笑会」とは公称会員数2万5千人を擁する、日本発祥の宗教団体。もちろん、実在はしないが、本作の中では1998年に笑嫣(しょうえん)という人物により、設立されたことになっている。

「心笑会」の教えは、人は笑顔によって幸せになれるというもの。SNSや掲示板で検索をしても情報が一切出てこない、謎の宗教団体でもある。

 鴨目はうさんくさいと思ったが、パンフレットの写真を見て、衝撃を受けた。なんとそこには、音信不通になった妻が写っていたのだ。

 そこで鴨目は、偽名を使い「心笑会」に入信する。周囲の人たちは、なぜか口をそろえて、「心笑会とだけは関わるな」と忠告してきたが、信者や教団関係者と交流を図りつつ、妻を探すことにした。

 その中で鴨目が見たのは、面白いことなど何もないのに教えに従い、狂ったように笑い続ける信者たちの姿。ゾクっとしながらも、さらに潜入を続けていくと、目を覆いたくなる「心笑会」の秘密を目撃してしまった――。

 一方、世間では衝撃的な事件が発生。顔を潰された全裸の男性の遺体が、河川敷で3体も発見されたのだ。同様の事件が2年前にも起きていたため、鴨目の友人で刑事の魚住は、詳しく調べようとするも、なぜか上から圧力がかかり、捜査を外されてしまう。

 果たして、この事件と「心笑会」には繋がりがあるのだろうか。鴨目の運命だけでなく、これから徐々に明かされていくであろう事件の真相解明からも目が離せない本作は、疾走感ある、スリリングな展開を見せる。

 社会の暗部を描いたストーリーに引き込まれるのはもちろん、登場人物たちの笑顔を不気味に描く作者の画力も相まって、ここには唯一無二の世界が広がっている。笑顔の中に常軌を逸した様子が感じられ、人の怖さがひしひしと伝わり、読者はこの危うい世界観から抜け出せなくなるのだ。

 怖いけれど、先を読みたくてたまらない。そう思わせる中毒性が、本作にはある。1巻のラスト数ページには目を見張る衝撃展開が描かれており、あなたもきっと戦慄するだろう。

 徐々に明かされていく、「心笑会」の闇。その深さに、恐れ慄いてみてほしい。

文=古川諭香

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