突然始まった、血のつながらない子どもたちとの暮らし……子育ての悩みに新しい風を吹き込む傑作「家族」漫画

マンガ

更新日:2022/6/16

の、ような。
の、ような。』(麻生海/芳文社)

 同じ方向を向いて少しずつ生活をつむぎあげていけば、血などつながっていなくても、それはもう立派な「家族」だ。麻生海による『の、ような。』(麻生海/芳文社)を読んでいると、ふとそんなことを思わされる。この漫画は、読むと心がやさしい気持ちに満たされる「家族」漫画。事故で両親を亡くした兄弟と暮らすことになった小説家とその恋人。彼らの日常にどんどん惹き込まれてしまう。

 主人公は、独身の小説家、キナこと希夏帆(きなほ)。マンションで一人暮らしをしていた彼女のもとに、ある日、恋人の愁人(あきと)が2人の少年、中学2年生の冬真と5歳の春陽を連れてきた。なんでも2人は愁人の親戚で、事故で両親を亡くしたばかり。葬式の場で親族たちが彼らを押し付けあっているのを見て、耐え切れずに連れてきたのだという。原稿の〆切間近だということを知っていながら、断るはずがないと見越して、子どもたちを連れてきた愁人に憤りを感じつつも、キナはすぐに冬真、春陽、そして、愁人とともに4人で同居生活を始めることを決意する。結婚する気もないのに、自分の子どもを育てたこともないのに、子どもがいる生活が突然スタートした。

の、ような。p.11

の、ような。p.37

 キナから見た冬真と春陽は、心配になるくらい手間のかからない子どもたちだ。それでも、キナの生活は彼らと暮らすことで一変。一人暮らしだった時は全ての時間を仕事に費やすことができたが、今ではそうはいかない。朝は中学校や幼稚園に行かせるための支度に追われ、人数の増えた洗濯物を干して、軽く掃除をすませると、もうお昼近くなり、仕事に取り掛かろうにも疲れきって、頭が回らず、気づけば、幼稚園へのお迎えの時間。それに、手がかからない子どもたちだからといって、彼らに何の悩みもないわけではなく、それにもしっかり向き合わなければならない。だが、キナはサバサバとした性格で子どもたちとの生活に順応していく。完璧でないにしても、いつだって子ども視点に立ち、自分にできることに全力を尽くそうとするキナの姿には憧れすら感じてしまう。

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の、ような。p.52

の、ような。p.127

 そんな真っ直ぐなキナの性格は、兄弟だけでなく、彼らの友人や「ママ友」にも大きな影響を与えていく。「説教は苦手」というキナだが、おかしいと思ったことに口を挟まずにはいられないのだ。たとえば、市販のお弁当を禁止している幼稚園の先生に意見を言ったり、子ども同士やママ友の争い事の仲裁に入ったり、問題を抱えていそうな子どもを助けたり。バレンタインをめぐる物語が描かれる最新5巻では、春陽の幼稚園の友人・有里花の厳しすぎる祖母にも物を申し……。キナのズバズバとした物言いには、誰もがスカッとさせられるに違いない。

の、ような。

 この作品には、根っからの悪人は出てこない。子どもたちの友人たちの中には性格に問題がありそう子もいるし、ママ友の中にも意地悪な人や、子どもの世話がキチンとできてない人もいる。だが、その裏には必ず何らかの事情がある。誰もが悩みを抱え、周囲のことが見えなくなっている。キナの言葉は、そんな人たちの心に新しい風を吹かせてくれる。そして、読む人の心までも軽くしてくれるのだ。

 そうか、どの家庭もこうやって子育てに悩むのか。この漫画を読むと、そんな当たり前のことに気づかされる。いつか子どもができた時、子育てに悩んだ時は、この漫画の、キナたちの家庭の姿を思い出したい。今、子育てに悩んでいる人ならば、読めば、肩の力が抜けてくるのではないだろうか。「家族」を築き上げていくヒントをくれるような温かな作品は、きっとあなたにも新しい視点を与えてくれるに違いない。

文=アサトーミナミ

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