やわらかなひみつ/前島亜美「まごころコトバ」㉛

アニメ

公開日:2022/6/24

前島亜美「まごころコトバ」

わかりやすい好みを持っている。と、我ながらよく思う。
好きなものができた時、何気なく友人や家族に話したりすると「あぁ、亜美が好きそうなものだね」と言われることが多い。

好きな作品、本、場所、文化、人など一貫性のある好みの中で、特に昔からブレていないのは“好きになるキャラクター”だ。
実は、猫やスイーツなどと並ぶくらいにかわいいキャラクターが好きで、密かに癒しをもらい日々を過ごしている。

私の“かわいい”には外せないポイントがいくつかあって、例えば白くてまるまるとしているとか、もちもちしていて目がつぶらだとか、手足が短くて口が「ω」だとか、これらが当てはまると無条件に好きになってしまう。
幼く、まだ恥じらいがなかったころは、身の回りのすべてを“かわいい”でいっぱいにしていた。

幼心に一番好きだったのは、サンリオのシナモロール。シナモンだ。
シナモンのグッズを少しずつ集め、シナモンのイラストがついたおもちゃを集め、一人さみしいベッドに、シナモンのぬいぐるみを一つ一つ増やしていくことに、とびきりの幸せを感じていた。

シナモン集めで特に思い出に残っているのは、たまに行くマクドナルドで買う特別なハッピーセット。

当時あまりファストフードを食べる機会がなかったが、シナモンがハッピーセットに登場した時だけは、マックを買ってもらえるという家の決まりがあり、ハッピーセットの予告にシナモンが登場するたびに、どのおもちゃをもらおうかとウキウキしたのを覚えている。

幼少期を思い出すと、いつもそこにはシナモンがいて、どんな時も一緒に過ごしていったように思う。

「シナモンが大好きなんです」
口に出していると思わぬ所まで届くことがある。

芸能活動を始めて数年のころ、サンリオさんとお仕事をする機会があった。その際、「前島さんはシナモンがお好きと聞いたので」と、シナモンのサイン色紙をいただいた。

「あみたちゃんへ」と記入された色紙を見た時、わたしへと描かれたシナモンがそこにはいて、驚きと喜びと感動で泣いてしまったのを覚えている。
人生の中で、大切な宝物の一つだ。

そんな当たり前のようにそばにあった“かわいい”だったが、歳を重ね20歳も近くになっていくと、もうそろそろ卒業しなければいけないのではと、ぼんやり考え始めた。

キャラクターやぬいぐるみなどから離れ、シンプルに生きること、洗練された人を目指すことが大人になることではないかと、何を好きだとか主張をすることもなくなっていき、好きだった“かわいい”とも自然と距離を置くようになっていた。

忙しく生きる毎日、なんの情報も入れたくないと思いつめた夜にふと出会ったサンリオのYouTubeチャンネル。シナモンのMVがアップされていた。

「シナモンCDデビューしてたんだ」と軽い気持ちで再生してみると、あまりにも純粋で優しさしかない世界に自然と笑顔になりながら、歌詞が耳に強く残った。

シナモンは今年誕生20周年。大切におもちゃやぬいぐるみを集めていたのはもう20年近く前のことになるんだ。ふとあの時を思い出し、ぼろぼろと涙がこぼれた。

「あぁ好きでいていいんだ」と思った。好きなもののところには、いつ戻ってきても、いつ帰ってきてもいいんだ。

誰に見られるとか、どう思われるとか、年齢とか関係なく、ただ純粋に、平和な気持ちを感じさせてくれる存在として、心に置いておけばいいんだ。

シナモンとの、“かわいい”との思い出は、純粋で真っ直ぐだったあのころと繋いでくれる、子供の頃の感性に戻れるかけ橋でもあるのではと思った。

どんな時も一緒に、いつでも両手を広げて受け入れてくれる存在。

シナモンを始めとした大好きなキャラクター達がくれる“かわいい”は誰に話すでも、主張するでもない自分だけの癒しで、やわらかなひみつだと思った。

第32回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/

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