【第22回】Kindleとうとう国内サービス開始! アマゾン ジャパンの中の人に素朴な疑問を聞いてみた

更新日:2014/3/6

端末としてのKindleの現状は? そのビジネスモデルは?

小河内 亮(Ryo Ogochi)
アマゾン ジャパン株式会社 事業部長 Kindle デバイス&アクセサリー事業部
同志社大学卒、米国スタンフォード大学経営大学院修了。(株)日立製作所で事業開発業務に従事後、2008年にアマゾン ジャパン(株)入社。テレビゲーム・パソコン事業等の事業責任者としてソフトウェアダウンロード、ゲーム買取サービスを立ち上げるなどし、2012年より現職。

まつもと :ベゾス氏も「Kindleはサービス」としながらも、やはりメディアや一般の関心はKindle端末にも集まっているかと思います。現在の予約状況はいかがでしょうか?

小河内 :詳細な数字は申し上げられないのですが、私たちの予想を上回る状況です。残念ながら、いまお届け日が1月になってしまっています。

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まつもと :本当は冬休みに入る前に発送したかった、ということですよね。

小河内 :そうですね。私たちもなんとかこれを前倒しできないか努力していますが。

まつもと :実際、端末の到着を待たなくても、iOSやAndroid向けのアプリも日本語化されましたので、それを使ってKindle版の書籍を読むことはできるわけですが、わたしの周囲でもそのことにあまり注目が集まってないようにも感じられます。アプリのダウンロード状況はいかがでしょうか?

小河内 :デバイスに拘らないというのは私たちのポリシーですが、長時間読書すると目が疲れるとか、持ち運ぶのが重い、あるいは電子書籍リーダーならではの機能があるという点から、専用デバイスも重要だと考えています。一方で、複数のデバイスを横断して、端末の違いを特に意識することなく読書を続けられるという観点からアプリをご用意しているという訳です。ダウンロード数については「多くのお客様に」としか申し上げられないのですが、日本語版提供を開始した際にはAppStoreでランキング1位になるなど、待ちわびていただけていたのかなと感じています。

まつもと :なるほど。一方で、北米ではすでにリリースされているPC版のアプリが提供されていないのはなぜでしょうか? 出版社さん側から、「画面がキャプチャされたり、DRM(Digital Rights Management/デジタル著作権管理)が外されてしまうのではないか」という懸念があるのでしょうか?

小河内 :PCも含め、対応デバイスはどんどん増やしていきたいと思います。出版社さんの側からそういった懸念が挙げられているということも特にありません。

友田 :利用シーンを考えると、まずはモバイル、スマートフォン・タブレットが最優先事項でしたね。PC、Macはその次と考えていますので、タイミングについては検討中という段階です。

かべ :わたしも会社のパソコンに入れて本を参照しながら、記事のチェックをしたりしたいので、期待してます!

まつもと :端末についてベゾス氏はいろいろと興味深い発言をしています。例えば、「作家が提供する読書体験こそが本質であり、ガジェットとしての端末は重要ではない」といった具合です。アマゾンにとって端末を販売するメリットというのはどこにあるのでしょうか?

小河内 :私たちはKindleのビジネスモデルを端末だけでなくサービス全体で捉えているのは事実です。読みやすさをどう提供するか? マルチプラットフォームにどう対応するか? コンテンツをどのように充実させていくか? 満足のいくカスタマーサービスをどう構築、運営していくか? など、トータルでビジネスを推進していますので、端末だけを捉えて、その利益構造について説明するのは難しいと思います。

いずれにせよベゾスの考えに則って、私は端末、友田はコンテンツやストアを充実させていき、お客様にとっての価値のあるサービスとして育てていきたいと考えています。

まつもと :当初、業界内には電子ペーパー端末のPaperwhiteだけを投入するのではないかという予想もありましたが、実際には映画や音楽、ゲームなどにも対応するFire、HDもラインナップされました。こういったコンテンツも今後充実させていく計画があるということでしょうか?

小河内 :そうですね。まあ、もともと私たちからPaperwhiteだけしか出さないという話はしたことはないのですが(笑)。先ほど友田からもあったように、お客様に満足いただけるコンテンツやサービスが整ってからデバイスも提供するという方針がありますので、Kindle Fire、HDの登場に伴ってコンテンツが揃っていくと考えてください。すでに音楽については2000万曲くらいあり、本も5万冊以上あります。アプリストアも近日中に開始します(※15日には音楽配信サービス「アマゾンクラウドプレーヤー」を開始)。

まつもと :映画についてはいかがですか?

小河内 :はっきりとした期日は申し上げられないのですが、近い将来に提供できるように現在準備を進めています。

まつもと :現在、デジタルコンテンツの世界では、定額制への移行が急速に進んでいます。先日auが「ブックパス」を開始したのも記憶に新しいところです。アマゾンとして定額制に打って出るということはありますか?

小河内 :今後どうしていくのかは検討中ですが、北米ではプライム会員はビデオが見放題になるといったサービスを始めています。

「Kindle化リクエスト」と「KDP」

まつもと :先ほど販売者の表示について触れましたが、「Kindle化リクエスト」が電子化されていない書籍に表示されているのも話題を集めました。

友田 :あの表示もグローバルで行われているものですね。私たちとしては電子であれ紙であれ、お客様に対して選択肢をより多く揃えるというポリシーでやってきていますので。Kindle版を全面に押し出していきたいということでもなくて、装丁に価値を感じる方であれば紙の本、あるいは手軽な文庫、そしてすぐに読める電子書籍という具合に選択肢を揃えていきたいというだけです。

極論すれば私たちにとってパッケージが何であるか、というのは重要ではないんです。今、紙の本でしか提供されていないタイトルに対して、どんなニーズがあるのか。これは逆に出版社さん側も知りたい情報ですから、お客様の要望をうかがって、できる限りフィードバックして、電子化に繋げていきたいという思いがあります。

まつもと :あそこからリクエストを出すと出版社に直接そのリクエストが届くのでしょうか?

友田 :いえいえ。そんな失礼なことはしません(笑)。まずは私どもの方で集計をして、今後出版社さんへお届けしていきたいと考えています。ぜひみなさんもどんどん押していただければと思います(笑)。

まつもと :電子化という観点からは自費出版サービスKDP(Kindle Direct Publishing)が同時にリリースされたのもインパクトがあったと思います。例えば楽天Koboは同様のサービスであるWriting Lifeをまだスタートさせていません。これは出版社への配慮だったという声も聞こえてきます。KDPを同時スタートさせた狙いはどこにあったのでしょうか?

友田 :KDPもKindleという大きなサービスの中の1つのメニューですから、当然Kindleを立ち上げる際にはスタートさせたいと思っていました。私たちとしては販売チャンネルを広く、オープンな形で提供したいという思いがあります。

自費出版と呼んでしまうと語弊があるのですが、KDPは実際に出版社さんも利用されています。読者=お客様への選択肢を拡げる作業の一環として行っています。それによって著者や出版社にも選択肢が拡がることになると考えています。

例えばKDPを使えば世界中にすぐ販売することができます。試してメリットを感じていただければKDPを使い続けて欲しいと思いますし、仮にメリットが薄ければいままで通り既存の流通チャネルをお使いいただくことになるのかなと。それは出版社・著者が決めることかなと思いますね。

まつもと :いわゆる「ボーンデジタル」(生まれながらのデジタル情報)なものに適したチャネルであるという認識でよろしいでしょうか?

友田 :そこはまさに出版社・著者が判断することですね。ボーンデジタルであっても、電子取次も存在していますし、KDPにも良い面もあれば、もしかすると悪い面もあるかもしれない。そこで実際に数字を見て、経済合理性に則って判断をしていただくということになりますね。

まつもと :KDPを利用する際、1つ課題となっているのが、ダウンロードにかかる通信費が版元負担である点です。容量の大きなコミックなどはそれによって利益がほとんどなくなってしまうのではないかという懸念もあります。

友田 :現在日本向けに提供しているロイヤリティ35%の場合は、通信費はAmazon負担ですので、そのような心配はありません。海外向けでロイヤリティ70%を選択する場合、通信費は著者・版元負担をお願いしています。この場合、コミックなど大容量ファイルでも魅力的な選択肢となるよう、今後の利用動向を見ながら、解決策を模索していきたいと思います。

まつもと :KDPには貸出サービス(KDPで一定期間独占で配信し、貸出を行うことで、アマゾンが用意した基金から貸出の回数に応じて一定の支払いが受けられるサービス)がありますが、日本ではまだ開始されていません。開始の予定はありますか?

友田 :予定は未定ですね(笑)。まずはきちんと土台を作ってから日本での展開を設計していきたいと考えています。