「本の中の図書館」に、思い切って飛び込んでみよう。『箱庭図書館』/佐藤日向の#砂糖図書館㊽

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公開日:2022/7/23

佐藤日向

 図書館に行くと、それぞれが自分の世界に没頭していることが足を踏み入れた瞬間から分かって、他の場所では感じられない不思議な安心感がある。それは、図書館にある物語たちが、自分を絶対に受け入れてくれるという信頼があるからなのかもしれない。

 今回紹介するのは、乙一さんの『箱庭図書館』という作品集だ。一般募集で集った6つの短編を、著者である乙一さんがリメイクした本作は、一般募集ということもあってか、作風や話の内容に統一感がない。だがそれが、図書館に足を踏み入れた感覚と似たものを読み手に与えてくれる。この一冊でミステリーも青春もホラーも体験出来る、まさに”図書館”のような作品だ。

 乙一さんの作品を今回初めて手に取ったのだが、物語終盤に明かされるオチが心地よく、短編の冒頭からもう一度読みたいと思わせてくれる文章たちだった。なかでも私にとって印象的だったのは「小説家のつくり方」だ。全編通して言えるのが、物語全体がドラマの脚本のような作りになっているため、読み進めながら頭の中で短編のドラマを撮影しているような気持ちになった。「小説家のつくり方」は場面転換も面白く、最後の台詞で場面ごとに月日が経っていることに気がつく。台詞と台詞の間の文章も、普段は状況説明のように見える部分がト書きを読んでいる感覚になり、役者としては想像力を掻き立てられる文字たちだった。

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「小説家のつくり方」が印象に残ったのは、他にも理由がある。この短編の主人公は小説家を生業にしているのだが、だからこそモノローグの言葉の使い方が巧みで、小説家という職業を過去に馬鹿にした人たちに、小説を通して復讐するといった内容だ。彼は作中では担任や同級生たちになんと言われたのか、具体的に述べてはいないが、小説家が物語を語らず自分の言葉を書けるあらすじであえて過去の自分の話に少し嘘を混ぜた物語を書き、馬鹿にされた文章の力を武器に戦っていた。自分の好きなこと、熱中できることは、磨けば武器になるし、それは強みになる。そもそも自分が好きなことを、他人が勝手に馬鹿にすることなんて出来ないはずなのだ。

 この短編にはオチがある、というよりは細かいことはあえて書かず、読み手が感じとったものを想像して、自分自身で理解を深めていく作品だ。昔はこういった作品を読むと「正解がないのはなんでだろう」とムズムズしていたが、20歳を超えてさまざまな作品を自分の目を通して読むことで、著者が伝えたい感情を少しずつ、断片的ではあるが、自分なりに解釈できるようになってきているのかもしれない。本作は本を読むことが苦手な人にも楽しんでもらえる作品だと、私は強く感じる。本の中の”図書館”に一歩足を踏み入れてみるのはいかがだろうか。

 

当連載のご愛読、まことにありがとうございます。
次回8月6日(土)更新分より、KADOKAWAが運営するWEBメディア「WEBザテレビジョン」での掲載となります。
引き続き、「佐藤日向の#砂糖図書館」をお楽しみいただけますよう、よろしくお願い致します。

 

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。