「どうしてお父さんは死んだの?」聴取対象者を追い詰めてしまった責任を問われ/【月9ドラマ原作】競争の番人①
更新日:2022/9/2
フジテレビ月9ドラマでも話題! 『元彼の遺言状』著者・新川帆立さんによる「公取委」ミステリー『競争の番人』(講談社)。
市場の独り占めを取り締まる公正取引委員会の審査官・白熊楓は、東大首席・ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉と同じチームで働くことに。反発しあいながらもウェディング業界の価格カルテル調査に乗り出すが…?
理屈抜きで面白い王道エンターテインメント小説の冒頭を、全5回で試し読み!
※本稿は新川帆立著の小説『競争の番人』から一部抜粋・編集しました。
第一章 弱くても戦え
1
降り続ける雨が窓を叩いていた。斎場の化粧室に冷房はない。九月に入っても息苦しいほどの蒸し暑さが続いている。蛇口から流れる水すら生ぬるい。
じっとりとした汗が、白熊楓の首を伝った。
「どうしてお父さんは死んだの?」
後ろから声がして、白熊は振り返った。
制服姿の少女がいた。背筋をぴんと伸ばして、劇団女優のように、やけに堂々と立っている。
紺色のボックスプリーツスカートは膝の少し上まで隠れる長さで、真っ白な半袖シャツには糊が利いている。少しも着崩していないのに垢ぬけた印象を放っていた。長身からすらりと伸びた手足が際立っている。
進学校として名高い県立高校の制服だ。入学が決まったときには親戚を集めて祝ったという。少女の父、豊島浩平から聞いた話だ。バレー部では二年生ながらレギュラーに選抜されている。妻に似て美しい自慢の娘だと頰をゆるませていた。
「美月ちゃん、だよね?」
白熊は少女と向かい合い、話しかけた。
「なんで私の名前を知っているの?」
美月は切れ長の目を細めて、白熊をにらんだ。
白熊は口を開いたが声は出なかった。一歩後ずさるも、すぐに洗面台にぶつかった。十歳以上年下の少女に気おされている。
「ああそうか。あなたがお父さんの取り調べを担当したから、私のことを知ってるのか」
美月は冷たく言った。
奥の電灯が切れかかっている。かちり、かちり、と音を立てながら点滅し、美月の横顔に光と影を落としていた。
「白熊楓です。公正取引委員会で審査官をしています」
「コウセイトリヒキ? 何それ。警察の人じゃないの?」
「警察でも検察でもない。公正取引委員会です。事業者たちにフェアな環境で戦ってもらうために、ズルをする人たちを取り締まっているの。お父さん、豊島さんの聴取を担当したのは私です」
聴取主任官は上司の遠山で、白熊は横付と呼ばれるサポート役だった。新人教育に熱心な遠山は、聴取や調書作成といったほとんどの業務を白熊に任せてくれていた。対象者の豊島と何日も顔を突き合わせ、仕事の話にとどまらずプライベートの話も交わすほどだった。
信頼関係はあったはずだ。
それなのに、豊島は自殺してしまった。
最後に会ったとき、豊島は笑っていた。晴れ晴れとした笑顔で「すっきりしました。隠しても仕方ないことだから。自分の口から話せてよかった。ありがとう」と言い、一礼して帰っていった。ほんの三日前のことだ。三日前までは豊島は生きていて、今はもう動かない。
「うちのお父さんは、ズルをしたから、取り調べられていたの?」
「いえ、そういうわけでは」
白熊は言葉を濁した。
調査対象は、道路工事を受注したゼネコンだった。談合をして、順番に工事を受注できるよう調整したという疑いがかけられていた。
豊島は工事発注者側の市役所職員である。参考人として話を聞いていたにすぎない。
煮え切らない白熊の態度に、美月は不信感を抱いたのだろう。
「本当のことを言ってよ」
声を張り上げ、飛びかかるように白熊の肩をつかむ。
「お母さんは何も教えてくれない。お父さんは真面目だけが取り柄みたいな人だった。でも裏では悪いことをしていたの? ねえ、本当のことを教えてよ。私は誤魔化されたくない」
美月の唾が、小柄な白熊の額にかかった。
「豊島さん、お父様は何も悪くない」
白熊は絞り出すように言った。
「お父様は公共工事発注の担当者でした。受注者側の業者たちが事前に受注者を調整して、受注価格を引き上げていたのです。こういう裏取引を談合といいます。談合の取り締まりのため、お父様からは参考人として話を聞いていただけです」
「お父さんが悪いことをしていないなら、どうして自殺したの?」
白熊は言葉を詰まらせた。
豊島は悪くない。その言葉には少しの噓が含まれていた。
北関東で数十年続いてきた談合だ。発注者側の市役所が知らなかったわけがない。むしろ便宜を図ることで天下り先を確保していた。先輩職員たちの引退後の生活がかかっている。そのポストを守るためにも、一担当者の豊島は談合の事実を隠し通す必要があった。聴取開始から二ヵ月が経っても、談合に関して豊島が口を割ることはなかった。
しかしあの日、豊島は涙ながらに語った。
「密室でオジサンたちが集まって何でも決めてしまう。こんなのもう止めなきゃいけない。日本がどんどんダメになる。イキのいい若者が起業して営業したって無駄ですよ。何十年と続く村社会に入って、オジサンたちに認めてもらって、下積みを経て、それでやっと受注の機会が回ってくる。仕組みができあがってしまっているんです。ブレーキの壊れた列車みたいに、走り続ける仕組みが。でも誰かが止めなきゃいけない」
聴取を終え、作成した調書に署名押印してもらった。
その日の夜、市役所に戻った豊島は屋上から飛び降りた。
警察から連絡を受けたとき、白熊は自分の耳を疑った。聴取を受けているときも、帰路につくときも豊島は落ち着いていた。思いつめた様子は見られず、むしろすっきりとした表情を浮かべていた。最初から覚悟のうえの行動だったのだろうか。
口を割った以上、職場にはいられない。同僚から白眼視されるだけではすまない。閉鎖的な田舎のことだ。同僚といっても遠い親戚だったり、中学高校の先輩後輩だったりして、人間関係は濃密に絡みあっている。
「〇〇さんが捕まったのは、豊島さんがしゃべったからなのよ」
噂は町じゅうを駆けめぐり、豊島の家族をじりじりと追い詰めるだろう。
遺書には「申し訳ありません。親戚、家族だけは許してください」と書いてあったという。
「お父様は正しいことをしました。何も悪くありません。このような事態になったのは、私の力が及ばなかったためです。豊島さんを守りきれませんでした。申し訳ございません」
頭を深く下げた。
「申し訳ございません」
顔を上げずに言葉を重ねる。美月は何も言わなかった。
何も言えなくて当たり前だ。
信頼していた父が談合に関する事情聴取の末、突然自殺したのだ。親戚や家族を守るために。残された家族の側で受け止めきれるわけがない。
まずは驚き、疑い、周囲に不信の目を向けるだろう。被害者として泣くことも許されない。近隣では「悪事の片棒を担いだ末の自殺」と語り継がれるだろうから。学校でも腫れ物に触るように扱われる。親しかった友人たちはいつの間にか去っていく。大黒柱を失って経済状況も悪化する。母は不安定になり、娘は気丈に振舞うようになる。
何か一つ倒れると、ドミノ倒しのようにすべてが崩れていく。
「申し訳ございません。申し訳ございません」
白熊は謝り続けた。
豊島が辛い立場にあることは、自分が一番分かっていたはずだ。豊島と最後に話したのは白熊だった。聴取を終えて別れるときに、せめて温かい一言をかけていたら。何かが変わっていたかもしれない。だが白熊は仕事以上のことは何もしなかった。通常通りの聴取業務を行っただけだ。結果として人が死に、残された娘が茫然としている。その事実が白熊の胸に重くのしかかっていた。
「申し訳ございません」
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。モウシワケゴザイマセンという音から意味が抜け落ちていくほどに、同じ言葉を重ねた。
そのとき化粧室の外で女たちの話し声がした。「ははは、でもそうよねえ。豊島さんちもこれから大変よねえ……だって娘さん、まだ十六歳でしょ……」。化粧室の扉を開ける音が続く。中に美月がいることに気づいて、口を閉じたのだろう。女たちの声は止んだ。
「きっも。ガチすぎて引くんだけど」
美月は吐き捨てるように白熊に言うと、化粧室から出ていった。
白熊は顔を上げた。
中年の女二人がちらちらとこちらを見ている。見てはいけないものを見てしまったバツの悪さと、何が起きていたのか知りたいという好奇心が入り混じった視線だ。
女たちの視線を無視して、手のひらで顔を拭いた。
美月の捨て台詞は強がりにすぎないと分かっていた。誰よりも傷ついている美月にとって、謝罪の言葉すら残酷だ。まともに受け取ることはできないだろう。それでも白熊には謝ることしかできなかった。
喪服を整えて化粧室を出ると、上司の遠山が待っていた。
「長かったな。大のほうか」
こんな場面でも遠山はデリカシーがない。彼なりの空元気なのかもしれないが、まともに取りあう気力は残っていなかった。
帰りの常磐線の中でも、二人は言葉少なだった。遠山は車内販売のビールを三本空けた。勧められたが白熊は飲まなかった。普段は大酒を飲む。だが今日酒を入れると、どうにもならないところまで気分が落ちてしまいそうだった。
上野駅を過ぎ、もうすぐ東京駅というところで、遠山がぼそりと言った。
「人が死ぬのは一番つらいな」
白熊は黙ってうなずいた。
「お前は悪くない。精いっぱい、やるべき仕事をやっていた。俺の力量が足りなかった」
これにはうなずかなかった。自分の仕事はした。けれども仕事しかしなかった。仕事からはみ出した場面でこそ、人の真価が問われるような気がする。他人を守れるくらい強くありたかった。もう一度三日前に戻っても何をしていいのか分からない。だけど何か、できることはあったはずだ。
うなだれるように、じっと自分の膝を見ていた。
「配置換えがあるらしい。お前は桃園さんの下に入る」
ハッとして顔を上げた。
「桃園さん? じゃあ、遠山さんとはもう」
「俺には任せられないって、上の判断だ。妥当だと思う」
「そんな」言葉が続かなかった。
審査局第六審査長、通称「ダイロク」という組織に二人は属している。ダイロクの中で厳格なチーム制はないが、白熊は遠山の下につくことが多かった。
遠山は荒っぽくて感覚的な人間だ。一度こうと言ったことが、いつのまにか別の意見に変わっていることもある。その都度部下は振り回されるから、音を上げる者も多い。
白熊は平気だった。大学までずっと空手をしていて根っからの体育会系だ。年長者の指示に従いながら事を進めるのには慣れていた。
遠山に対して尊敬の念すら抱いていた。遠山は聴取対象者と信頼関係を築くのが上手かった。不思議な人間味があるのだ。誰にも口を割らなかった聴取対象者も、遠山の手にかかると何でも話す「完落ち」の状態になる。徳次郎という名前から「落としのトクさん」と呼ばれていた。
「あ、お姉さん、お茶二つ」
遠山が車内販売のカートを呼び止めた。手早く支払いを済ませ、冷たいお茶のペットボトルを白熊に手渡す。
「今日一日、何も飲み食いしてないだろ。せめて水分を摂っとけよ」
訃報を受け取ってからというもの、息をつく間もなかった。局内は大騒ぎだった。聴取スケジュールに無理がなかったか、聴取担当者に不適切な言動がなかったか、すぐに内部調査が行われた。遠山や白熊も報告書を提出し、ヒアリングを受けている。場合によっては記者会見も行われるという。
冷えたお茶を口に含むと、喉がすっきりとした。
これまで呼吸が浅かったのかもしれない。胸の奥に空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出すと、思考が少しずつはっきりしてきた。
今回の件で遠山は責任を取ることになるだろう。降格はないにしても昇進の目は潰えた。入局してから三十余年、ノンキャリアとして到達できる最高ポスト、審査長まであと一歩だった。ゴールは見えているのに手が届かないまま、数年後には定年を迎えてしまう。
それもこれも自分のせいだ。白熊の気持ちは一層沈んだ。
新しい上司が桃園だというのも気が重かった。
桃園は良くも悪くも女くさい女で、甘ったるく語尾を伸ばしてしゃべる。胸元を強調するラップワンピースを着て、しゃなりしゃなりと近づいてくるのだ。四十を過ぎているはずだが、二十代のころと比べても見た目は変わらないという。
その美貌のためか、年配の聴取対象者からのウケが良い。大企業を相手取った大量摘発の際にも、十人斬り、二十人斬りの勢いで調書をとっていた。仕事ができるのは間違いない。けれども白熊とは生きてきた世界が違いすぎて、なんとなく馬が合わない。
「あっ、そうだ」
遠山が急に明るい声を出した。
「良いニュースが一つある。小勝負勉が帰ってくるぞ」
「小勝負勉?」
「入局五年目だから、お前は同期だろ。知らないのか。天才、小勝負だよ」
同期にすごい人がいると聞いたことがある。
十六歳で公認会計士試験、二十歳で司法試験に合格。東大法学部を首席で卒業し、TOEICやTOEFLは満点だという。国家公務員試験も一位だったらしい。
「小勝負君、ダイロク配属ですか?」
「うん。留学から帰り次第、着任だ。留学先のハーバード・ロースクールでも首席だったって。俺は直接知らないんだが、どんな奴だろうな」
「さあ、私もよく知らないんです」
小勝負は懇親会のたぐいに一切顔を出さない。配属部署も違うから、言葉を交わしたことすらない。遠目に姿を見たことがあるくらいだ。
胸の内に苦い気持ちが広がった。
「なんで嫌そうな顔をしているんだ?」
「いかにも賢いですって感じの人、苦手です。見下されることも多いし」
白熊は運動が得意だったために、筋肉バカのようなレッテルを貼られることがよくあった。四年制大学を出ているし、一般的な水準よりは高等な教育を受けている。頭より身体が丈夫だというだけで、頭が悪いかのような扱いを受けることには辟易していた。
だからこそ、賢そうでエリート然とした人間に対して、苦手意識がある。単なる反発心かもしれないし、もしかしたら劣等感なのかもしれない。
「ははは、なんだそれ」
遠山は目を細めて笑った。
「考えすぎだよ。本人と会ってみなきゃ、どんな奴か分からんだろ」
遠山の言葉は慰めにはならなかった。白熊は顔を手で覆うと、はああ、と息を吐いた。
横浜の自宅に着いたときには、午前零時をまわっていた。
玄関で静かに塩をまくと、ゆっくりと戸を開け、足音を消して進んだ。母の三奈江を起こしたくなかった。
一階のリビングルームからは煌々と光が漏れている。扉にはめ込まれたすりガラスを通じて、中の人影が見えた。三奈江は起きて待っていたのだろう。
リビングルームの前を素通りして、二階の自分の部屋へ上がろうとしたとき、リビングルームの扉が開いた。
三奈江の白い顔がのぞく。
「楓ちゃん、遅かったじゃない」
もう二十九歳だというのに、「楓ちゃん」と甘ったるく呼ばれるのは居心地が悪い。けれども止めてくれと頼んだら、三奈江は「なんでそんなにひどいこと言うの」と泣き出すだろう。泣かれると言うことを聞かざるをえないし、そうやってこれまでやり過ごしてきたから、結局、三奈江は三奈江のままだ。
「お父さんは?」
「夜勤のバイトよ。今日は警備員のほう」
白熊の父、敏郎は警察官だった。交番強盗にあった六年前までは。
ある警察官が銃を奪われ、その場で射殺された。敏郎は身を挺して犯人を捕らえたが、左足を撃たれて大けがを負う。以来、脚を引きずりながら内勤の仕事を中心にしていた。デスクワークは彼の性に合わなかったらしい。さっさと警察を辞めて、今は警備員や夜間工事のアルバイトをしていた。
「命があっただけ儲けものだから」
敏郎本人はそう笑って飄々と暮らしているが、心中は計りしれない。
「その服、どうしたの」三奈江の声は乾いていた。
白熊の服装をじっと見つめている。
三奈江が騒ぐといけないから、三奈江がパートでいない時間を見計らって出かけていた。三奈江が寝ている間にこっそり戻ってくるつもりだったが、見つかってしまった。
「なんで喪服を着てるの。誰かお亡くなりになったの? 大丈夫なの? 危険なことに巻き込まれてないでしょうね。ねえ、今の職場は安全なのよね?」
矢継ぎ早に質問を重ね、すがるように白熊に近づいてくる。白熊の腕をとって、引っ張った。華奢な身体のどこから湧いてくるのかと不思議なくらい強い力だ。怨念に近い強迫観念がみなぎっているようで恐ろしくなる。
だが白熊は三奈江の手を振りほどくことができなかった。
「大丈夫だよ。仕事の関係者が亡くなったから葬式に参列していただけ。霞が関でオフィスワークをしてるんだから、危険な目にあうことなんてないよ」
優しい口調で言い聞かせると、腕をつかむ三奈江の力は少しずつゆるんできた。
三奈江はもともと心配性だったが、敏郎のけがを経て、神経がより細くなってしまった。
白熊は警察官になりたかった。
敏郎が警察官をしていたから、自分も当然警察官になるものだと思っていたのだ。空手を始めたのも、敏郎が空手をやっていたためだ。
周囲の大人を見て、憧れる人の真似をする。そういうふうに育ってきた。
敏郎がけがをしたのは、白熊が警察学校で学んでいるときだった。三奈江は黙っていなかった。警察官への道を諦めないなら、親子の縁を切ると迫ったのだ。悩んだ末、警察学校を中退した。
その後一年間勉強して国家公務員試験を受験し、公正取引委員会に入局する。勤務先は霞が関で、デスクワーク中心と聞いて三奈江も納得したのだった。
三奈江の肩越しに、リビングルームの壁が見えた。ソファの後ろの飾り棚には大小さまざまなトロフィーが並んでいる。白熊が空手の大会でもらったトロフィーだ。
県大会二位、関東大会二位、全国大会二位……。どのトロフィーにも大きな文字で二位と刻まれている。土壇場で甘さが出てしまうのか、いつも決勝戦で負けてしまう。
いつも、いつだって、一番欲しいものは手に入らない。
万年二位の女だ。
警察官の夢は諦めたけれど、せめて公正取引委員会の審査官として一人前になりたかった。あの人みたいに強くなりたかった。しかしそれも叶わないでいる。
「心配いらないから。お母さんももう寝なよ」
三奈江は小さくうなずいて寝室に入っていった。以前よりさらに小さくなったその背中を見ていると、胸が締めつけられた。
公取委はデスクワークだと伝えているが、実際は現場に出ていって警察のような動きをすることも多い。ただ警察と違って、警棒や拳銃を持っていない。丸腰で向かっていくことになる。
強盗犯や殺人犯を追うわけではない。談合やカルテル、下請けいじめなどの知能犯、経済犯を追うのだから、荒事に巻き込まれる可能性は低いはずだ。
母を悲しませるようなことはまず起こらない。自分にそう言い聞かせながら階段を上り、部屋へと戻った。