SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第14回「美味しそうに食べる人」

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公開日:2022/8/27

 ご飯を美味しそうに食べる人が好きだ。食べるという行為が生きることに直結しているからだろうか。ご飯を美味しそうに食べられる人はそれ自体が才能で、特技で、チャームポイントであると思う。

 そもそも美味しそうに食べるというのは一体どういうことなのか考える。様々な人間の食べる姿を長年密かに観察し続けてきた私であるが、いまだその明確な条件は不明だ。ただ主要となる条件として、食べている本人の感情が表に滲み出ていることと、食べる様を見ている人間にまでその感情が波及することの二つが挙げられると思う。端的に言えば、「この人絶対美味しいと思っているんだろうなア」という様を見て、「いいなア、自分も食べたい」と思ってしまう、それこそが即ち美味しそうに食べる、ということになるのではないだろうか。

 それは一概に表情ではない。往々にして美味しそうに食べる人間の表情は嬉しそうではあるのだが、仏頂面の人間の食事姿にそれを思うことだってある。

 それは一概に振る舞いではない。往々にして美味しそうに食べる人間の姿は所作が美しいことが多いが、作法がなってない姿にそれを思うことだってある。

 もちろん食べているもので左右されるものでもない。高級でなくても、流行っていなくても、料理と呼べるようなものでなくても、それを思うことがある。

 それは歌の表現にも似ている気がする。性根が表に出やすいのだ。何を歌うかよりも誰が歌うかだし、きちんとした音程で歌えるかよりもどんな気持ちで歌うかだと思う。だから例えば歌詞がなくても、歌と呼ぶにはギリギリの形であっても、時に人は感動するし、高揚することだってあるのだ。

 しかし美味しそうに食べることというのは一種の表現ではあるが、そもそもが外に向けることを目的としていないので、より自然体というかなんというか。受け取る側が勝手に感じているだけのものなので、歌聴いてすげエって感覚よりも、動物見てかわいいって感覚の方が近いのかも。なので、ご飯を美味しそうに食べる、は共通点を感じられるものこそあれど、かなり独立した行為、表現であるように思われる。

 特殊であると思うからこそ自分は、人間性を知ることの出来る大きな要因として、ものを食べる姿を見る。そしてご飯を美味しそうに食べる人間は、どういうわけか信頼のおける人間であることが多かった。これは美味しそうに食べない人間が信頼出来ないという意味ではなく、あくまでも経験則で割り出した比率の話。そしてどう歪曲して考えたところでただの主観でしかないので、なんの当てにもならない、私の場合の話なのだが。逆説的に信頼を置ける人間だから美味しそうに見えるのだろうか、とも考えたのだが、何人かの食事の場面を思い起こすに、何人かの人には申し訳ないのだが、そういうわけではない模様。

 ただ不思議なことに、誰かを見て美味しそうに食べるなアと思う場面では、大体他の人も自分と同じように思っていることが殆ど。法則がない上に、完全主観での判断となるこの「美味しそうに食べる」は、案外共通認識になりうるようだ。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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