SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第17回「体裁とポイント」

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公開日:2022/11/27

 職業柄、ゴーイングマイウェイでもまア良しとは思っているのだが、私は昔から世間一般的な大人像に漠然とした憧れがあり、しっかり大人になったのなら、具体的に言うなれば三十歳を迎えたらこういう風にありたい、という理想が三つあった。ちなみにそれは、考え方やライフスタイルといった本質的なこととは少し違う身の回りのカジュアルなものだ。

 理想を実現させた先に一体何があったのか、今回はそんなことを書きたいと思う。

 一つ目はハンカチを持ち歩くこと。これに関しては大人とかそういうカテゴリー以前の問題なのだから、とっととやれよ、と思われても仕方のないことではあるのだが、なかなかに自意識が過剰な私にとってこれはハードルの高いものであった。小学生の時分、常に持ち歩きなさい、と学校から決まり事として押し付けられた時からの抵抗が根深く残っており、意地でも私は持たない、と心に決めていたものであったからだ。しかしある程度年齢を重ねてみると、実に紳士的に見えてくる。反発する心とかっこいいなと思う心とで板挟みにあい、折り合いをつけるために『三十超えたら』という自分で設けたボーダーラインまで待つことにしていたのだ。ボーダーラインを越えるなりワクワクしながら何枚かのハンカチを買い揃え、ようやく持参出来た時の、何に対してか全くわからない優越感は実に気持ちのいいものであった。

 二つ目は鞄を小さくすること。これは今まで持ち歩いていなかったものを持つようになるというハンカチのパターンとは大きく違い、元来の状態から削るという作業であるがゆえになかなかに苦しかった。なんでもかんでも持ち歩きたい私の性分は、これがあったら便利だろうな、という前向きなものとは違い、これがなかったら不便かもしれない、という後ろ向きなものであったからである。欲しい時に必要なものがなかったら苦しくなってしまうストレスが訪れるリスクヘッジとして、膨らんだ鞄を小さくする作業は、初めのうちそれ自体が心のストレスになっていた。しかし思い描く世間一般的な大人像に近づけているという歓びでなんとかカバーした。そしてそもそも「欲しい時」は案外やってこないということがわかってからは、財布と携帯と本とイヤフォン(本気出したら財布のみ)、長期の外出以外はこれだけでなんの不便もなく過ごせている。何かから解放される感覚は他に形容し難い充足感だった。

 そして三つ目。これが一番の難儀であった。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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