「自分にしかできないプレー」とは? 自分を客観視すると…/サッカー日本代表:浅野拓磨『考えるから速く走れる ジャガーのようなスピードで』

スポーツ・科学

公開日:2022/12/6

 2022年11月23日(水)日本中が歓喜に沸いた。FIFA ワールドカップの初戦、優勝候補の強豪・ドイツに2対1で逆転勝利した日本! FWの浅野拓磨選手がゴールを決めた瞬間、感動して涙した方も多いのではないでしょうか。

 今回は、今最も注目されてるサッカー日本代表:浅野拓磨選手の書籍『考えるから速く走れる ジャガーのようなスピードで』をご紹介します。

「誰よりも深く考えなければ、誰よりも速く走ることはできない」……。7人兄弟の3番目という大家族に生まれ、サンフレッチェ広島の10番からあっという間にプレミアリーグ・アーセナルに完全移籍した浅野拓磨選手。

“世界最速”とも評されるサッカー選手は、試合中にいったい、どんな景色を見ているのか? 海外でいま直面している悩み、そして、日本代表への強烈な思いとは――。

 浅野拓磨選手の思いが詰まった『考えるから速く走れる ジャガーのようなスピードで』を、ぜひご覧ください!

※本作品は浅野拓磨著の書籍『考えるから速く走れる ジャガーのようなスピードで』から一部抜粋・編集しました

「自分にしかできないプレー」とは何か

 そういう意味では、たぶん、(香川)真司さんも同じ感覚を味わっていたんじゃないかと思うんです。それでも、真司さんの場合は「テクニック」という選択肢を削っているようには見えません。

 これは完全に想像でしかありませんが、真司さんの場合、同じ感覚を味わったとしても、それを〝壁〟と感じないままプレーできたからじゃないでしょうか。

 ドイツのなかでもレベルの高いボルシア・ドルトムントで、移籍一年目からあれだけ活躍できたということは、選択肢を削る作業を必要としなかった。自分の技術で相手のパワーを上回ることができたから、それを難しいと感じるよりも「次はこれをやってみよう」というポジティブなサイクルにすぐ入れた。つまり、次の可能性を試せる環境を、自分でつくることができた。そこがぼくと真司さんの特徴の違いであり、単純に技術レベルの差だと思います。

 真司さんの場合、相手を背負った状態でパスを受けても、身体のフェイントやコントロールの駆け引きで相手の逆をとり、前を向けます。でも、ぼくにはそれだけの技術がないから、「来ている」と感じたら、味方に預けて裏に走るほうが成功の確率が高い。そのとき「前を向く」という選択肢を最初から消してしまったほうが、判断のスピードも、プレーの精度も上がります。

 選択肢を減らすことを〝壁〟と表現しましたが、先ほどもお話ししたように、実際にはそれを壁だと感じているわけではなく、悩んでいるわけでもありません。自分の特徴を客観的に見極めれば、できること、つまり裏に抜けるプレーの質を上げることを優先すべき。もちろん、そのためには相手を背負った状態で味方に落とすパスの精度を上げなければいけませんが、そうやって自分がもっている武器を磨けば、十分に通用すると思います。

 自分が置かれている状況を考えれば、残念だけど「ボールをとられてもいいから仕掛けてみよう」とは思えません。試合でも、練習でも、一度のボールロストが命取りになる状況にあるからこそ、選択肢を削ることに対する未練もない。

 いまのぼくが強引に仕掛けてボールを奪われれば、「シンプルに預けて走れ」といわれますが、FCバルセロナのリオネル・メッシが強引に仕掛けてボールを奪われても、おそらく誰も何もいわない。真司さんもそれに近い状態にあるからこそ、やっぱり、環境を変えてからの〝最初の成功〟が、いかに大切かがわかります。

 ぼく自身、Jリーグでプレーしていたころはプレーの選択肢が多いほうだと自覚していました。でも、ドイツに来てそれを削っているということは、テクニックについては、その時点で不足がある。一定のレベルでは発揮できるテクニックでも、その上のレベルでは、選択肢としてもつこと自体が難しい。

 だからといって、それをネガティブに捉える必要はありません。真司さんと同じプレーはできないけれど、真司さんもぼくと同じプレーはできないはず。自信をなくす必要はないし、自分にしかできないプレーの質を追求したいと思います。

<第7回に続く>

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