「定型圧力のすさまじさ」内田 樹×名越康文×橋口いくよ 勝手に開催!国づくり緊急サミット

名越康文

2013/2/28

思想家・内田樹、精神科医・名越康文、小説家・橋口いくよの三氏が語り合うダ・ヴィンチ本誌人気連載「勝手に開催! 国づくり緊急サミット」。この連載をまとめた書籍化第2弾『本当の大人の作法』がいよいよ3/1(金)に発売! そこで、書籍の発売を記念して、単行本用の書き下ろし原稿の一部を、毎週木曜日に特別公開致します!!

文=橋口いくよ 写真=川口宗道

ヤンキー文化が信仰するものとは?

橋口 前回、人は人を「定型」にはめたがるというお話になりました。

名越 そうしたがるのは、寂しさもあるからなんです。皆寂しいから、人の心を物のように手なずけたいって思ってしまう。人の心を取りたい、所有したいと思うのよ。そういう人って、どうしても、上から目線で高圧的になっていくんです。

内田 そうなんだよね。そしてすぐ「おまえらは」って言いたがる。

名越 もう、暴君ですよね。

内田 中学・高校の先生たちの中に、ものすごく熱心で、生徒を愛しているっていう熱血教師と呼ばれる人たちがいるでしょう。ああいう人たちって「皆さん」とか「君たち」じゃなくて、たいてい「おまえら」なんだよね。すごく乱暴な口をきくわけ。そういう先生たちって、主観的には「いい先生」なんだよ。生徒を愛していて、生徒たちからもけっこう愛されているって自分では思っている。そうじゃないと、「おまえら」なんて言えないもの。「おまえらの気持ち、俺には全部わかる」っていうふうに、妙に親しげに近づいてくるんだよ。本人は親しみのつもりなんだけど、それが乱暴な言葉として出てくる。そんな先生に近づいて来られたら、僕なら逃げ出すけどね。

橋口 確かに生徒に好かれるタイプってことになっている先生って「おまえら」って言う定型ってありますよね。しかもそういうドラマも人気です。

名越 そういうヤンキー的なことが好きな人って多いんですよ。今、ヤンキーとあっさり言ってしまいましたけど「ヤンキー」という言葉がない時代は、おそらく「不良」と言っていたんですよね。ただ、ヤンキーと不良には決定的な違いがあると思うんです。不良は家を捨てるけれど、ヤンキーは家族信仰なの。

橋口 そうかもしれない! 家を捨てたように見えるヤンキーの人たちもいるんだろうけど、結局、早婚で、すぐ家族を作りますもんね。

名越 そう。家族信仰で、恋愛信仰だからね。愛があれば大丈夫だという考えなんです。

橋口 確かに一匹狼だらけの世の中よりも、家族をどんどん作る人たちがたくさんいたほうが人間は絶滅しないわけで。すごいなあ。人間の趣向って、本当は生命自体の趣向なのかもしれない。

名越 一匹狼がかっこいいとされていた「不良」が、暴走族カルチャーを経て、そこから群れができて「ヤンキー」へという流れがあり、それが教師のキャラクターにまで位置づけられていったんですね。

橋口 今では、ヤンキー教師って熱血教師のひとつの定型になりましたもんね。でも同じ熱血でも、金八先生は違うと金八ファンとしては言いたい。

内田 ヤンキー教師は、愛さえあれば自分の言葉が全員に通じると信じ込んでいるけれど、金八先生は、自分の言葉が通じない生徒がクラスには必ずいるっていうことをわかっている気がするね。そういう絶望を「込み」で語っている感じがする。

名越 確かに。金八先生のそれを「ヤンキー文化」が湾曲して解しているところはありますよ。

橋口 文化! いいとか悪いじゃなくて、もう文化なんですもんね。考えてみれば、見た目がヤンキーじゃなくても、そこへの憧れとか、そこへの情熱が強い人って、潜在的にすごく多いと思うし。恋愛信仰や家族信仰まで含めると、もうものすごい数で。

内田 ヤンキーこそ「定型」そのものだからね。服装一緒、髪型一緒、言葉遣い一緒、語彙一緒、ロジックも一緒、美意識も一緒っていう。あれが同化なんだよ。生きる型をぎりぎりまで狭めてゆくことで、自分の個人的な、複雑怪奇な問題を出来合いの定型にはめこんで解消しようとする。

橋口 そういう、ヤンキー文化って日本独特のものなんですかね。

内田 アメリカにも「ブラザー文化」とかあるね。聴くのはラップで、服装も同じで、歩き方もしゃべり方も全部同じじゃないといけないっていう。定型に集団を押し込めて身動きさせないようにするという文化的な縛りはどこの社会にもあるね。フランスにもあるし、イギリスにもあるし。

橋口 自分で選んで、そこへ入っていくんでしょうか。

内田 「ブラザー文化」なんかはもう選択の余地がないんじゃないかな。ハーレムとか、そういう定型化圧力が強い地域に生まれたら、そこから一人で逃げ出すのは無理でしょ。

橋口 自発的に見えながら、実はブラザー文化的定型圧力が強い地域に生まれてしまったことが理由っていう。

内田 定型の縛りから自由になって社会的上昇を遂げるということを仲間うちには許さないんだよね。絶対にここから出ていくなって。「抜け駆けするな」ということなんだよ。そういう定型圧力に押し込められた集団の人たちは、だからどこでも早婚になるね。それは別に家族が好きとかいうことより、子供が生まれて父親母親になると、その人の社会的自由度が一気に下がるから。外国に留学するとか、苦学して医者になるとか弁護士になるとか、そういう「すぐには結果が出せないので、ちょっと待っていてください」という「しばらくの間、好きなことをさせてもらう自由」が結婚して子供ができると大幅に削られるでしょう。自分にどんな才能があるのか吟味するより先に、そういう選択肢そのものを若くして奪われてしまう。だから早婚というのは「出身階層から抜け出させない」という一種の呪縛なんだよ。

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内田 樹
うちだ・たつる●1950年東京都生まれ。思想家。神戸女学院大学名誉教授。凱風館館長。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。2007年『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第6回小林秀雄賞を、10年『日本辺境論』(新潮新書)で新書大賞2010を受賞。近著に『街場の文体論』(ミシマ社)、『ぼくの住まい論』(新潮社)、光岡英稔との共著『荒天の武学』(集英社新書)など。自身が運営するブログは人気サイトでもある。「内田樹の研究室」http://blog.tatsuru.com/

名越康文
なこし・やすふみ●1960年奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。臨床に携わる一方で、テレビ・コメンテーター、雑誌連載、映画評論、漫画分析などさまざまなメディアで幅広く活躍中。近著に『自分を支える心の技法』(医学書院)、『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』『心がスーッと晴れ渡る「感覚の心理学」』(ともに角川SSC新書)、内田樹&西靖との共著『辺境ラジオ』(140B)など。毎月第1・第3月曜日に「夜間飛行」(http://yakan-hiko.com)名越康文メルマガも配信中。

橋口いくよ
はしぐち・いくよ●1974年鹿児島県生まれ。作家。著書に『愛の種。』『蜜蜂のささやき』(いずれも幻冬舎文庫)、『アロハ萌え』『猛烈に!アロハ萌え』『おひとりさまで!アロハ萌え』(すべて講談社文庫)、『原宿ガール』(メディアファクトリー)、『小説 僕の初恋をキミに捧ぐ』『小説 少年ハリウッド』(ともに小学館文庫)など。最新情報はオフィシャルブログ「Mahalo Air」http://ameblo.jp/mahaloair/