【第1回】 菅野結以の“ことば結い” 『キッチン』 吉本ばなな

2013/3/15

 同年代の女子から圧倒的な支持を受ける人気モデル・菅野結以が、好きな本や映画、音楽の一節などからお気に入りの言葉をチョイス。自身のエピソードをまじえながら綴っていくコラムです。
毎月第2・4木曜日に更新予定!


菅野結以_ブランコ

かんの・ゆい●1987年、千葉県生まれ。モデル活動のほか、東京FMやINTER FMの番組でラジオパーソナリティ、映画評の執筆連載、自身のコスメブランドのプロデューサーを務めるなど活動は多岐にわたる。公式ブログ:http://ameblo.jp/kanno–yui/ twitter:@Yuikanno

 はじめまして、菅野結以と申します。

 普段は雑誌のモデルやブランドのプロデューサー、ラジオDJなどをやらせていただいています。

 こう書くと、何やらイケイケな感じを想像されるかもしれませんが…非常に肩書き負けした質素な生活を送っていまして、それを象徴するかのようにわたしの特技は「ひとり遊び」です。

 本と映画と音楽とノート、それらをひょいとポケットに入れて、気ままにお散歩をするように日々を生きていけたなら。それほど幸せなことはないんじゃないかと思うのです。あわよくば、それを誰かと共有しながら。

 この連載では、わたしがこれまでに出会ってきた大切な言葉たちを作品と共に紹介していきたいと思います。つまり「あわよくば」の試みということです。この試みが、誰かにとっての大切な言葉と出会うきっかけになれたなら幸いです。

 今回は記念すべき第一回目!ということで、正統派な名言をチョイスしてみました。時代を超えて語り継がれる名作であり、名言の宝庫とも言うべき一冊、吉本ばなな著「キッチン」。
 


キッチン_吉本ばなな

紙『キッチン』

吉本ばなな 角川書店 420円

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる――。唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさ にみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。泉鏡花文学賞受賞。


 

【Yui’s Choice】
いやなことはくさるほどあり、道は目をそむけたいくらい険しい……と思う日のなんと多いことでしょう。愛すら、すべてを救ってはくれない。それでも黄昏の西日に包まれて、この人は細い手で草木に水をやっている。透明な水の流れに、虹の輪ができそうな輝く甘い光の中で。

 

 そう、この世には自分の力ではどうすることもできないことが沢山ある。どんなに愛を注いだ大切な人もペットもいつか必ず死んでいくし、タイミングさえ選べない。それでも今日も生命に水を注ぎ続けるという、希望めいた行為はとても美しい。

 主人公の女子大生みかげが、唯一の血縁関係である祖母を亡くしてしまうところからこの物語は始まる。身寄りを失いみなしごになったみかげの元へ、祖母が生前仲良くしていたという花屋のバイト・雄一が現れ、ひょんな事からみかげは雄一とその母(正しくは「父」)のえり子さんに引き取られることになる。引用した文中の「この人」とは、最愛の妻を亡くしたあと女になることを決め、ゲイバーを営みながらたった一人で雄一を育ててきたえり子さんのことだ。

 死が繋いだ3人の奇妙な共同生活には、しんとした静けさと密やかな優しさが蔓延していた。それは悲しみをかき消してくれるでもなく、ただそれがそのままそこにあることを認めてくれるかのような、柔らかなあたたかさだった。

 

【Yui’s Choice】
闇の中、切り立った崖っぷちをじりじり歩き、国道に出てほっと息をつく。もうたくさんだと思いながら見上げる月明かりの、心にしみ入るような美しさを、私は知っている。

 

 死はいつだって生の隣にぴったりとくっついている。それは決して対極ではなくて、淡々とした静かな日々のふとした場面で気まぐれに顔を出す。

 どんなに大切な人を亡くしても、それまでと何ら変わらぬスピードで日々は進み、どんな絶望の淵にいようと、容赦なく人はお腹が空く。

 生きていくことはとてもめんどくさいことだけれど、生きていればまた新しく出会ったり、また人を好きになったりもするんだろう。

 

 

【Yui’s Choice】
「そうね…私に。」できることがあったら言ってね、と言うのをやめた。ただ、こういうとても明るいあたたかい場所で、向かい合って熱いおいしいお茶を飲んだ、その記憶の光る印象がわずかでも彼を救うといいと願う。言葉はいつもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。

 

 「思っていることは言葉にしなければ伝わらない」「いくら心で思っていても、ちゃんと言葉にしなければ意味がない」そういう考えもあるし、それはそれで納得なのだけれど。

 えり子さんが亡くなったあと、みかげと雄一が初めて喫茶店でお茶を飲むこのシーンがわたしは大好きなのだ。

 まるで祈りのように、慎ましやかな愛の形。
 どんな言葉をかけ合うよりも、愛おしい距離がここにはある。
 

菅野結以の追加ショットはこちら(「読みたガール365」に登場!)