ヒャダイン連載 【第3回】西麻布とはなんじゃらほい? 『駅がないのに流行り続ける「西麻布式」の秘密』を読んで考えてみた。

更新日:2013/8/9

西麻布の店は客に干渉しない、特別扱いしない

バーからつまみだされるオチ。

 まず一番の特徴。「最寄り駅が存在しない」これがすごいですよね。飲食店にとって駅からの距離、というのは一番気にしなければいけない問題。駅から徒歩15分かけてわざわざ行きたくなるレストラン、は、よほど美味しいかネームバリューがある店じゃないと成立しないですよね。実際、おしゃれタウンである中目黒、恵比寿、渋谷あたりの「徒歩15分」レストランをサイクリングがてらチェックしているとバタバタ閉店して、またバタバタ新規開店して、そしてまたバタバタ閉店しています。しかし西麻布は街自体が「最寄り駅なし」。著者いわく、やはり閉店開店のサイクルはあるものの、全く何もなかった街が今の形となって、駅がないことを逆手にとって長続きしている店が多いようです。その理由を著者は、西麻布の店が客に干渉しない、特別扱いしない点にある、と説いています。大晦日、レコード大賞に出演した直後の大物歌手がバーの片隅でお酒を飲んでいる。他の街なら大騒ぎになったりするが、西麻布では触れるとしても「おめでとう」と軽く声をかける程度。そこで「うわーーー!! さっきまでレコ大出てましたよねえ。すげーーー!!! ていうか、おめでとうございます! 曲、めっちゃ聴いてます!! この店、よく来られるんですかー!?」
 なんてなったら、店主につまみ出される街、それが西麻布。駅が無いからこそ、「ついで」に来る客がいない。学校帰りのガキや会社帰りのミーハーOLが来ることがない。来たとしても居心地の悪さにすぐ退散することになる、と。確かに、駅がないからタクシーか車で来るしかないですよね。バーが多いからマイカーよりタクシー派が圧倒的でしょう。となると、タクシーで往復しても気にならない距離に住んでいる人すなわち広尾恵比寿青山あたりの高級住宅地、もしくはタクシーで往復する金額が気にならない人すなわち富裕層!!! 著者は西麻布を「村」と表現していますが、来るお客さんの層が自然淘汰的に限られてくるんですね。それゆえオトナがリラックスできる空間を作ることができるのでしょうね。

西麻布には最先端が溢れていた

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バブルの女性のイメージ。2013のファッションの流行と通じるところがあると思う。

 「唯一無二の店がある」ということも著者は説いています。ご紹介が遅れましたが、この著者は西麻布になんにもないころから西麻布の飲食店の空間デザインをしているプロデューサー。言ってみれば西麻布を創った人の一人。生き字引。そんな著者が言うには西麻布には最先端が溢れていたようです。現在のクラブや、DJという存在、コンセプチュアルなレストランやシックなバーなどなど、今当然となっているような文化の多くは西麻布から生まれたとのことです。そんなとんがった街だったからこそ、色々な文化人がこぞって西麻布に募ったらしいです。そりゃあそうでしょうね。今みたいにネットが普及して情報交換が簡単に行える時代ならまだしも、家にいてもテレビくらいしかメディアがない時代、そういった芸術家肌の人々が情報交換をする場、互いに高め合う場というのは必ず必要だったわけで、それを街そのものが最先端である西麻布が担うのは当然の結果だったのかもしれません。

 著者が西麻布の特性として挙げていることで、「店同士の争いがない」ということがあります。「どこどこの店がオープンしたから今度行ってあげてよ」とかいう会話が平気でなされるらしいです。普通ライバル店を薦めるなんて考えられない行動ですよね。これもやはり西麻布自体が最先端の人々が情報交換する場、という共通認識があるからでしょうね。店単位で物を考えるのではなく、「西麻布」という塊で認識しているのでしょう。だから、「村」と表現したのかな。粋だなあ。