【第2回】取り扱い点数が少なくても魅力的な電子書店とは? ――BOOK☆WALKERの中の人に聞いてみた!

更新日:2013/8/14

タイトル数ではなく電子書店ならではの仕掛けを断続的に

――Twitterも拝見していると、さまざまな取り組みをやっていますね。

間野: 昨年末の大晦日には「108の煩悩を買いまくれ!」というキャンペーンを行ったのですが、これが大変好評でした。

 富士見書房さんの協力のもと、NHKの「ゆく年くる年」が放送されている30分間限定で108の「煩悩的」なタイトルを100円で販売するというものでした。この30分間に6000冊強の本を買っていただくことができました。

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――毎分200冊以上が売れた計算ですね。

間野: はい。30分間しかないので、サーバーの負荷がどうなるかなど、ドキドキしながら見守っていました(笑)。

――実はBOOK☆WALKERが開設されて間もないころ、「乙嫁語り」が85円となっていたので買おうとしたところ、エラーで買えなかったことが……。アクセスできた! と思ったら定価に戻っていて、悔しいからそのまま買っちゃいました(笑)。

 

 

間野: あー! それは申し訳ありませんでした。そしてありがとうございます! すごく話題になってアクセスが集中してしまい……。現在は橋場がサーバーを増強したので、大丈夫なはずです。

間野由美子
株式会社ブックウォーカー サービス企画部
生粋のテレビっ子。ライトノベルやアニメ等、角川グループ作品を横断的に扱う事業や、TV番組情報誌『ザテレビジョン』のモバイルサイトを担当するなど、無駄と思っていたテレビの知識が大活躍。現在の受け持ち範囲は、ライトノベル(電子書籍)全般に。
最近のお気に入りは『デート・ア・ライブ』(著者:橘公司、イラスト:つなこ/ファンタジア文庫)、『犬とハサミは使いよう』(著者:更伊俊介、イラスト:鍋島テツヒロ/ファミ通文庫)、『なれる! SE』(著者:夏海公司、イラスト:Ixy/電撃文庫)。

橋場: あの作品は、実は出版社の希望であのような価格設定を行いました。85円という価格はkindleストアでも不可能(kindleストアは99円からの設定)な意欲的なものです。柔軟な価格設定ができるのはBOOK☆WALKERの特徴の1つといえるかもしれません。また、例えばラノベ既刊なら450円、といった具合に相場観ができはじめています。AppleさんのTierだとその次は600円になってしまいますので、紙の本と変わらなくなってしまう。Tierで設定されている85円と100円の間にある、Kindleの99円というのはバランスの取れた数字だなあと思ったりもしますね。

間野: 基本的に価格は出版社と、紙の本の価格を基準にしながら決めています。一方で、電子オリジナルのタイトルもラインナップしていますので、そちらは相場がありませんから、「さて幾らにしたらいいんだろう」と出版社と相談しながら都度考えています。ボリューム感やジャンルによっていろいろ試行錯誤している段階ですね。

――なるほど。それにしても、私がTwitterでよく呟きを見かけるからかもしれませんが、さまざまな電子書店の中でも「中の人」の存在を強く感じます。単に電子化された本を機械的に並べているだけではないなと。キャンペーンや特集の企画などはどんな風に決めているんでしょう?

間野: 誤解を恐れずに言えば「やりたい放題」で、任せてもらっています(笑)。もちろん一定のルールはありますし、ジャンルごとに目標数値はありますが、それを達成するためにも出版社のみなさんと一緒にアイディアを出しあっていきます。電子化された本が追加されていく――そこではITによる合理化・省力化も図られていますが――のと並行して、実際の本屋さん同様に「人がそこにいる感じ」が大事だと思っています。

――多くの電子書店が取り扱いタイトル数を競うような傾向にあるなかで、大手が取り組む書店としては異色の存在ですよね。

橋場: タイトル数で肩を並べるべきか、という議論は正直社内でもありますし、仮にそういう方針になったときに対応できるよう準備は進めています。立ち上げ当初はシステムや作業フローの制約で週に数十タイトルしか本を追加できなかったのですが、現在では1,000単位で可能になりました。

――とはいえ、前回のインタビューでも取り上げましたが、たとえ15万タイトルが品揃えされても「読みたい本が見つからない」という印象はおそらく拭えなくて、むしろ「この本はいかがですか?」と納得感を伴ってオススメされた方がありがたいのかなと思ったりします。

橋場: そうですね。別の見方をすれば新刊は、何もしなくてもある程度売れます。そんな中、名作・旧作と呼ばれるような既刊本の掘り起こしを新刊やその著者と関連させてしっかり行っていくことが大切です。

間野: 2年間で「こうすれば売り伸ばせる」という経験則はある程度蓄積されたという自負があります。

橋場: 例えばよくある「1巻無料」はできるだけ避けるようにしています。無料だとダウンロードはするけれど、実際あまり読んでもらえていないのではないかと。

――いわゆる「積ん読」になってしまっているということですね。なんとなく身に覚えもあります。

橋場: ですよね。なので、やはり決済はしていただきたいなという思いもあり、1巻と2巻を安く設定したりします。「安くても買った以上は読まなきゃ」となる。そしてそこまで読んでいただくと、続きが気になってシリーズを購入する可能性が高まるというシナリオですね。シリーズまとめ買いによるキャッシュバックも続きを読んでもらうための工夫の一環です。

間野: その上で「さらに+αで何か面白いことができないか」というのを考えていますね。コレクターとしての読者=ユーザーにどうやったら満足してもらえるか?――というのも着眼点の一つです。

 直近では、「フルメタル・パニック!」(富士見書房)の賀東招二先生の15年ぶりの新作と、「フルメタル・パニック! アナザー」の新刊が同時に出たということもあり、それにあわせて「フルメタル・パニック!(新装版)」の最終巻である12巻に特典を付けたんです。それが、1巻~12巻のカバーイラスト画集です。ファンの方からはすごく好評でした。

この他にもシリーズで購入していただくと、特製の本棚をプレゼントするというキャンペーンも実施しています。

――角川グループの強みが活かされたという面はあるのでしょうか?

橋場: 率直に言ってグループだからやりやすい場面と、そうじゃない部分はあります。ただBOOK☆WALKERはグループの中での独立した電子書店ですので、出版社・読者双方が満足するような企画を目指せる立場にはあります。