【第3回】 菅野結以の“ことば結い” 『ベロニカは死ぬことにした』

菅野結以

2013/4/25

 同年代の女子から圧倒的な支持を受ける人気モデル・菅野結以が、好きな本や映画、音楽の一節などからお気に入りの言葉をチョイス。自身のエピソードをまじえながら綴っていくコラムです。
毎月第2・4木曜日に更新予定!


菅野結以_ブランコ

 小学生の頃、図書室で本を借りると自分の貸出しカードにハンコが押されて、いっぱいになったらまた新しいカードがもらえて。

 そうやって増えていくカードの束を見るのが嬉しくて、休み時間のたび図書室に通っては色々な本を読んでいた図書委員時代。

 その頃に読んだ物語の内容なんてもうほとんど忘れてしまったけど、冒頭でいきなり主人公が自殺を図るこの本のことはその衝撃から強く記憶に残っていて。

 大人になって久しぶりに本屋さんで目にしたこのタイトルに再読欲を掻き立てられたわたしは、あの図書室ぶりに手にとってみることにしたのでした。


ベロニカは死ぬことにした

紙『ベロニカは死ぬことにした』

パウロ・コエーリョ/江口研一 角川書店

ベロニカは全てを手にしていた。若さと美しさ、素敵なボーイフレンドたち、堅実な仕事、そして愛情溢れる家族。でも彼女は幸せではなかった。何かが欠けていた。ある朝、ベロニカは死ぬことに決め、睡眠薬を大量に飲んだ。だが目覚めると、そこは精神病院の中だった。自殺未遂の後遺症で残り数日となった人生を、狂人たちと過ごすことになってしまったベロニカ。しかし、そんな彼女の中で何かが変わり、人生の秘密が姿を現そうとしていたー。全世界四五ヵ国、五〇〇万人以上が感動した大ベストセラー。


 

 若く美しい24歳のベロニカは、ある朝睡眠薬で自殺を図ります。
その理由は、当たり前に豊かで不自由のない退屈な繰り返しの日々に、もう飽き飽きしていたから。

 人は平穏で安全な生活を望むけれど、それを手にしてしまったら人生の目的を失うも同然で、たちまち生きることを無意味に感じてしまったりもする。こう書いていると人間ってなんてひどい矛盾を抱えた生き物なんだろうと思うけれど、実際こんなないものねだりの性質は誰もが何かしらの形で身に覚えのあることなんじゃないかなあ。

 この世の中に「当たり前」なんてひとつも存在しないはずなのに、わたしたちは日常に溢れたたくさんの奇跡にも簡単に慣れてしまうから。

 

【Yui’s Choice】
誰も、何に対しても慣れてしまってはいけないのよ、エドアード。わたしを見て。わたしはもう一度、太陽も、山も、人生の問題でさえも、楽しめるようになってきたの。人生の無意味さが、自分の責任以外の何ものでもないことを受け入れ始めたところなの。

 

 自殺に失敗し精神病院のベッドで目覚めたベロニカは、睡眠薬を大量摂取した後遺症であと数日の命だと宣告されます。

 残り僅かな日々の中ではもう失うものなんて何もなくて、余計な気遣いや取り繕いが削ぎ落とされた純粋な言動ができるようになったベロニカは、死を目の前にして初めて自分らしい人生を生きられるようになってしまう。それは死にたかったはずの人間の心に、皮肉にも「生きたい」という欲望を生むことになるのでした。

 わたしは座右の銘を聞かれると、「メメントモリ=死を想え」と答えます。それって、まさにこういうことで。明日突然死ぬかもしれないんだ、という事実をいつでも思い出せるように胸に置いておけば、自分にとって本当に大切なことが浮き彫りになって、自ずと思考はシンプルになっていく。

 だから苦しいとき、心が死んでしまいそうなときには、わたしはいつも「今日が人生最後の日かもしれない」と思うことにしています。投げやりな意味ではなくってね。死を想うことで生命が本来の輝きを取り戻すというのはとても皮肉なことのようだけれど、そうやって二度とは戻らない瞬間を全力で燃やしていくことこそが“今を生きる”ということなのかなあ、と思ったりもして。
 

 

 

【Yui’s Choice】
人が自分の本質に逆らうのは、人と違ってもいいという勇気に欠けているからで、そうしたら器官は毒としてよりよく知られる、憂鬱を生み出すんだ。

 

 そしてこれはぜひ全国の学校にでも貼り出しておいてもらいたい言葉です。

 とは言え誰もが自分の中にある欲望を抑圧することなくすべて吐き出していたとしたら、世の中はきっと大混乱。秩序もへったくれもない世界にはスリルはあるだろうけど、楽しめるかどうかは不安なところ…。

 だから本来の自分を多少なりとも殺して生きていくことは、社会の波をスムーズに乗りこなしていくためには必要なことなのかもしれない、けど。けど! 誰が決めたのかもわからない“普通”という名の曖昧な定義に飲み込まれながら生きていくなんて、それこそ本当に気が狂ってしまう気がするんです。
 

【Yui’s Choice】
狂ったままでいながら、普通の人のように振る舞うのです。人とは違う存在であることの危険を冒しながら、注意を惹かずにそうすることを覚えなさい

 

 ああ、なるほど。なんだか折り合いの付け方を見つけたような気がしたこの言葉、わたしなりに変換すると「背骨は曲げずに歩み寄る」。忘れないようにしよう、と心のノートにメモメモ。

 こんな風にこの本は「本当の意味での生きることや死ぬこと」をテーマに描かれた普遍的な名作だけれど、実はわたしがこの本を好きな一番の理由はロマンスの部分。ギリギリな精神状態の中にでも確かに自然発生する、こんな部分なんです。
 

【Yui’s Choice】
ベロニカをアーティストだと理解できるのはエドアードだけだった。ソナタかメヌエットの純粋な感情の間で、彼女は、他の誰とも結んだことのない絆を、この男と結んでいた。

 

 ベロニカが病院のラウンジにあるピアノをつま弾くその音色によって生まれた、多重人格者エドアードとの目には見えない深いところでの交流。言葉もなく触れ合うこともなく、ただ音楽が繋いだ二人の信頼関係は本当に美しくて。

 ズレや歪みをまっとうさせた先にこんな愛の形があるのなら、どんな“普通の幸せ”だっていらない、という気がしてしまうのはきっとわたしだけじゃないはずです。

 お互いの、奇妙だけれどどこまでも純粋な、ありのままの美しさを理解し合える人が目の前に現れたのなら。その時こそが、「もう死んでもいい!」な瞬間なのかも。
 

【Yui’s Choice】
誰かがあと少しの時間しか生きられないのに、ベッドの横に腰かけて、眠っている男を眺めて過ごすことにしたのなら、それこそが愛だと思うの。

 

菅野結以_ブランコ

かんの・ゆい●1987年、千葉県生まれ。モデル活動のほか、東京FMやINTER FMの番組でラジオパーソナリティ、映画評の執筆連載、自身のコスメブランドのプロデューサーを務めるなど活動は多岐にわたる。公式ブログ:http://ameblo.jp/kanno–yui/ twitter:@Yuikanno

菅野結以の追加ショットはこちら>>(その1)(その2)