WEB官能&BL(10)いおかいつき『恋する証拠を確かめようか』

更新日:2013/8/6

「みんな、気をつけて帰れよ」

 上司として部下たちを気遣う桐生のそばに、康輔は当たり前のように控え、そのやりとりを見守っていた。

「じゃ、俺たちも行くか」

 そう康輔を促し、桐生は他の部下たちとは反対方向に向かって歩き出す。飲み会に参加していたメンバーでは桐生と康輔だけが同じ方向だった。

「ここはやっぱり飲み直しだな」

「ですね」

 桐生の提案に、康輔もすぐに同意した。さっきは眞美の酒癖の悪さを目の当たりにして、気持ちよくは飲めなかった。二人の足は自然とここから徒歩で行ける行きつけの店へと向かっていた。

「そうだ。さっきのあれ、お前、もうちょっと早くなんとかしろよ。同期だろ?」

 桐生がいつもの二人だけのときの態度に代わり、飲み会でのことを蒸し返す。

「年長者を立てたつもりですが……」

「そういうときだけ、人を年寄り扱いしてんじゃねえよ」

 桐生が軽く背中を叩いてくる。決して痛くない強さだが、それでも他の部下には絶対にしないことだ。

「でも、初恋の話もそうですけど、恋愛についても、みんな、真剣に考えてるんですね」

 康輔には理解できなかった感情を、同じ扱いをされていた桐生にぶつける。

 繁華街から遠ざかっているからか、人通りがどんどんと少なくなり、だからこそ、人に聞かれると気恥ずかしいような話題でも平気で口にできた。

「ただ会いたいだっけ?」

「言われてみれば、確かに、そんな感情はなかったような気がしますよ」

 薄情だと言われても仕方がない。自分から好きになったのではないせいか、相手に対してそれほど特別な感情は持てなかった。それでも康輔なりに彼女扱いをしていたつもりだが、相手には不満があったのだろう。いつも関係は長く続かなかった。

「俺の会いたいは、やりたいってことだったからなぁ」

「そりゃ、最低って言われますね」

「だから、最近は特定の恋人を作ってないだろ。なんだか、面倒になってきてさ」

 桐生がしみじみとした口調で呟く。

「俺もです」

「お前は言うな。まだ三十だろ」

「でも、正直、最近は彼女とか作ろうっていう気にならないんですよ。桐生さんといるほうが楽しいですし」

「ああ、それは俺も同感だな」

 笑いながら同意されたことが、康輔を嬉しくさせる。

「お前なら、ただ会うだけでいいんだけどな」

「この間なんか、ホントに何もしませんでしたもんね」

 康輔は答えながら、つい思い出して笑ってしまう。

 会社でも毎日会っているが、プライベートで最後に会ったのは、先週末の土曜日だ。初めて、桐生が康輔の自宅マンションに訪ねてきたときだった。桐生が暇だからと電話をかけてきたとき、康輔はちょうど宅配便の到着を待っていて出かけられず、それならと桐生が自宅に来ることになったのだ。

「ただ会いたいとか、一緒にいたいとかだったっけ?」

「ああ、そんなこと言ってましたね。それが恋愛してる証拠に……」

 康輔は最後まで言うことができなかった。この一年ほど、そんな感情の伴う行動を取っていた。そして、康輔にそんな行動を取らせる相手が目の前にいることに気付いたからだ。

 黙っていれば、気付かずに済んだだろう。けれど、康輔だけでなく、桐生もまた自らそのことに触れたせいで、気付かずにはいられなかった。

 言葉にしてしまったことで、二人の関係が、今、この瞬間から別のものへと変わり始める。

「お前さ、……俺に会いたいとか思ったりする?」

 桐生の声にいつもにはない躊躇いのような、僅かな間が生まれている。

「それがね、困ったことに思うんですよ」

「困ることはないだろ」

 康輔の返事が桐生を微笑ませる。ただ話をしているだけでも、桐生とは楽しく感じる。桐生もまたそう思ってくれているのだろう。一緒にいるときの桐生は常に笑っていた。

「桐生さんは?」

「思わなきゃ、電話なんかしないだろ」

「ですよね」

 答えがわかっていたけれど、言葉にしてもらいたかった。康輔からの一方通行ではないと確信させてほしかったのだ。

「とりあえず、確かめてみるか?」

「何をです?」

「これが恋ってやつかどうかだよ」

 決断力の早い桐生らしく、先に動いたのは桐生だった。康輔の腕を取ると、素早くビルとビルの間の狭い路地へと移動する。

「どうやって確かめます?」

 狭い路地だから、自然と二人の間の距離が近づく。しかも腕は掴まれたままだ。嫌でも互いの体温は感じてしまう。

「そりゃ、やっぱりこうだろ」

 ニヤリと笑う桐生の顔が、さらに近づいた。

 

 

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