WEB官能&BL(12)住吉いこ『花のころはさらなり』

フルール

2013/5/14

官能WEB小説『fleur(フルール)』連載

住吉いこ『花のころはさらなり』

 花が咲く季節には、いつも彼を思い出す――学生時代に淡い恋心を抱いていた男・久野と再会することになった真澄。時折みせる久野の男の顔に戸惑いながらも、真澄はあの頃よりももっと、強く彼に惹かれていく想いを自覚する。
心の奥に大事にしまっていた初恋のつぼみが、6年の時を経て今、大人の男と女になったふたりの間で、艶やかにひらいていく……。

 

 その人のことを思うのは、いつも花のころだった。ぷつぷつ芽を吹き、ぷっと膨らんだつぼみがひとつふたつ、最初はちぢれたように稚拙に開いて、けれどすぐに自らの役割を思い出すのか、三分咲きから先はあっという間。重たげに、けれど誇らしそうに揺れる花弁に日毎うららかさを増す陽射しが透けて地面はまばらな光を埋め込んだみたいにまぶしい。

 仕事の合間に、あるいは湯船の中で、あるいは眠りに就く前。何か久野(くの)さんのことばっか考えちゃうな、というのが続いた折に、ふと電車から外を見る。テレビをつける。公園を突っ切って帰る。するとそこには桜が咲いている。花のころだ、と思う。花を見て思い出すんじゃなく、ひんぱんに思い出して春が来たことに気づくのだ。それ以外の季節は頭からすっぽり抜け落ちているというわけじゃないけれど、とにかく真澄(ますみ)の中でそういうサイクルができあがっている。誰に教えられずとも花を咲かせ、葉をつけるタイミングを知っている植物のように。

 思い出してきた。この六年、毎年。出会いと、短い交流と、あっけない別れを。