【第4回】リアル書店は生き残りのためにどんな戦略を描いている?  ―国内最大級の紀伊國屋書店に聞いてみた

更新日:2013/8/14

書店ビジネスを海外へ積極展開

――なるほど。お話しをうかがっていると、よく言われている“書店が本との出会いの場になる”というイメージに沿った仕組みが整いつつあると感じます。さらに言えば、“本のショーケースになる”と言ってしまってよいのかも知れません。国内ではリアル書店の減少が続いていますが、紀伊國屋書店では海外展開も積極的に進めていますね。

森: 現在、8カ国で24店舗を展開中です。特に2008年にオープンしたドバイ店は、世界一高いということで有名なドバイタワーの足下に1800坪規模の1フロアで展開しています。これは新宿本店の全フロア床面積(約1500坪)を足した面積よりも広いものです。洋書はもちろんですが、現地で人気の高いマンガやその周辺グッズの展開を強化しています。

 

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2008年にオープンしたドバイ店


 

ドバイ店は1フロアで1800坪とじつに広大。新宿本店全フロアよりも広い


 

――いわゆる「クールジャパン」の発信拠点とも言えそうですね。ここまでの規模で海外進出を行っている国内書店チェーンは他にないと思いますが、どのような経緯で海外展開を始めたのでしょうか?

森: 1969年にサンフランシスコに出店したのが最初ですね。日本人街の再開発に伴い誘致されたものですが、駐在員の数も増え、彼らのニーズに応える形で和書を輸出していたところ、日本そのものへの関心の高まりもあり、日本関係の洋書を取り揃えるようになりました。

 その後、シンガポールを始めとしたアジア地域にも出店していくのですが、そこでは日本関連の洋書はあまり売れず、日本の商品カタログや店舗デザインの本のような実務的なジャンルが支持されています。あとは一般的な洋書が人気で売上の6割以上を占めています。

――海外展開と電子化の関係は?

森: ニューヨーク・ロンドンをはじめ電子化が進む地域にも拠点を置いて情報収集にも当たっていますが、電子に向いたジャンルとそうでないものと差がはっきりしてきていると感じています。児童書や実用書は紙の書籍が支持されていますね。

 また、国によってもその速度が異なっていて、アメリカやイギリスのようなアングロサクソン系の国々では(日本でもよく紹介されるように)電子化が加速していますが、そうではないフランスやドイツのような国ではまだまだ紙の書籍が好まれているのではないかと思います。電子だからといって単純にボーダレスに展開できるわけではなく、紙と電子を組み合わせなければビジネスを成立させるのはなかなか難しいのではないでしょうか。

 もちろん海外においても電子書籍サービスを展開したいと考えています。まずはKinoppyの事業を国内で軌道に乗せることが最優先でしたが、そろそろ機は熟したかなと考えています。海外のお客様からのお問い合わせもとても多くなってきていますので(※国内で会員登録したユーザーが海外からPCで書籍を購入し閲覧することは現状も可能。アプリは日本のストアでのみ提供している)。

宇田川: 実は、「Kinoppy」というアプリの名称は、社内公募した際に海外スタッフからの提案が採用されたものなんです。アメリカの若い人が紀伊國屋書店のことを「Kinoppy」と親しみを込めて呼んでくれている、というエピソードがもとになっています。

――海外展開の際もそのまま使える名前でもある、ということですね。

 

リアル書店と電子書店――紀伊國屋書店のこれから

――先日、楽天がkoboで国内の電子書籍市場の半分を獲得していくと宣言して話題になりましたが、紀伊國屋書店としてはどのような目標を掲げているのでしょうか?

森: 現状、市場はコミックが中心で、当社が得意とする文字ものの書籍の電子書籍市場がこれからどう推移していくかは正直読めない部分もあるのですが、社としては電子書籍市場全体の1割の売上シェアを確保することを目指しています。そのためには今後コミックの扱いも一層強化していきます。

宇田川: まずはシステム連携・UIを含めサービス強化をしっかりと続ける、という段階ですね。本らしさを追求するために字游工房さんの游明朝フォントを用意したのもその一例です。

――電子書籍で避けて通れないのがDRM(Digital Rights Management/デジタル著作権管理 )の話題です。また、他の電子書籍サービスに見られるようなソーシャルメディアとの連携(ソーシャルリーディング)には今後取り込まれますか?

宇田川: DRMについては出版社の求めに応じる形で対応しているのですが、コストもその都度かかりますので、正直なところ「外しても良い」というコンセンサスができると良いかなと(笑)。ソーシャルについてはまだ手が回っていませんが、今年中にはなんらか形にしたいところです。

――楽しみにしています。最後に、紀伊國屋書店の今後、期待しておいて欲しい点などを聞かせてください。

藤則: 海外も含めて、リアル書店というお客様と直接接点を持てる場を持っていることが私たちの最大の強みです。ビブリオバトルの実施や、本を探すだけではなく提案できるスキルを持ったコンシェルジュの養成にも力を入れています。電子書籍の売上がリアルの書店を支えるようになるのはまだ先になると思いますが、そういったリソースを活かしつつ、電子の世界を紹介していくというのが私たちの役割の1つです。今回立ち上がった統合サイトもその一環ですし、リアル書店でカフェと連携し電子書籍を体験できる場を用意したのもそのためです。

 

売場や本の案内だけでなく提案もしてくれる「本のコンシェルジュ」


 

宇田川: 立場的に日々のオペレーションに忙殺されてしまっていて、大所高所に立って俯瞰的な視点がなかなか持てないのですが、他にもさまざまな電子書店が生まれる中で、“続けていく”ことを大切にしたいという想いは強く持っています。「電子書籍はいつか読めなくなるのでは」という心配の声をよく耳にしますが、お客さまの大切な本をお預かりしているわけですから、絶対にサービスは提供し続けたいと思っていますので、応援していただきたいと思います。

 また、書籍の予約機能など、あって当然と思われる機能がまだ実現できていないということもありますので、内部的なインフラの充実も含めがんばりたいと思っています。サポート窓口への声はもちろんですが、Twitterやブログなどネット上の声もできる限りチェックするようにしていますので、何か要望や意見があればどんどんお寄せいただければと思います。

――今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました。

 

 

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