WEB官能&BL(24)葵居ゆゆ『つないであなたのものにして』

更新日:2013/10/1

 コーヒーを淹れるのも家事をちゃんとするのも誰のためだと思ってるんだろう、と恨みがましく思いながら立ち上がったとき、ポケットの中でスマホが震えた。またかと思ったとおり、メールの差出人は名前のないあのアドレスだった。

『今日もエッチなことをするのかな?』

 聞いてどうするんだ、と香矢は呆れた。スマホをポケットにしまおうとして、思い直してもう一度メールを開く。

 知らない相手からのストーカーめいたメールは、一月ほど前からときどき届くようになった。今日のような質問から、「きみはどんな顔でイくんだろう」という独り言めいたもの、「セックスのときの声が聞きたい」という要求まで様々だ。受信拒否してもまた違うアドレスから同じようなメールが送られてくる。

 今までけっこうな数の男と寝て、メアドを教えた相手も何人もいたが、一度も、誰とも恋人になったことはない。相手もそれは承知の上だから、トラブルになったことはなかった。今回も、気分のいいメールではないが、エスカレートする気配もないので香矢は放置していた。もしかしたら、と思い浮かべた過去の相手が、少しだけ気になったせいもある。

(春之(はるゆき)さん、だっけ。あの人――)

 こんなメールを送るような切羽詰まった人間はめったに相手にしないのだ。春之と名乗った叔父とほとんど歳の変わらないその男は、ゲイバーのパーティで倒れそうなほど緊張しているのを見かねて、めずらしくコウから声をかけた相手だった。あの人ならメールを送ってくる可能性はある。けれど、それなら名前を伏せる必要はないし、文面の雰囲気も彼とは違う。口調は似ているが、彼だったら直接的に会いたいとメールしてくるだろう。以前に、苦しげに電話してきたときのように。

「近くのホテルでいいかな? よく行くところがあるんだ」

 地下の店から上がる階段で高橋が振り返ってそう言った。いいよ、と返して香矢はスマホの画面を操作した。

 エッチなことするよ。

 素早く打って送信し、やや投げやりな気分で微かに笑う。わざと危ない橋を渡るのは叔父へのあてつけだ。見咎めた高橋が「誰にメールしたの?」と聞いてきて、「さあ」と香矢は肩を竦めた。

「誰でもいいでしょう。それより早くしたい」

 わざとらしいほどあだっぽく高橋の腕にすがって微笑むと、ごく、と高橋の喉が動いた。

 簡単な男だ。そのぶん可愛げがあるけれど、これじゃかわりにもなりやしない、と香矢の中で囁く声がする。うまく感情が読み取れて、相手を喜ばせて、ほめられて、求められる。相手が誰であれ、それは香矢を少しだけ満たしてくれる行為なのに、簡単すぎるとメッキが剥がれる。

 本当に尽くしたい相手は、求められたい相手は、絶対に香矢を望んではくれない。

 

 

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