【第8回】王者ジャンプの電子化への回答――ジャンプLIVEの魅力とは?

更新日:2013/10/31

今はまだ、いろいろチャレンジしている段階

――デジタルなのであまりページ数を意識していなかったのですが、どのくらいのボリュームになっているのでしょうか?

細野:新規書き下ろしが1500ページくらいあります。「毎日こち亀」のような更新コンテンツが2000ページ以上、全体では3500ページくらいになっています。

――ものすごいボリュームですね(笑)。

advertisement

細野:本誌が平均500ページ、増刊号でも600ページ~700ページですから倍以上のボリュームです。さらにページに換算できない動画やアニメなどのコンテンツもあります。お買い得です(笑)。

――大量の書き下ろし、ストーリーが分岐するインタラクティブな展開、撮り下ろし動画などのコンテンツがある、となると、かなりお金が掛かってしまうのでは、と余計な心配をしてしまいます。

細野:最初にお話しした「ジャンプBOOKストア!」の成功、つまり読者がそこに居る、という手応えがありましたので、自信はあります。大手電子書店と比べても、「ジャンプBOOKストア!」でのコミックスの売り上げは遜色ないものでした。「ジャンプ」というブランドへの信頼感や、ジャンプ的なエンターテインメントに対するニーズはあると確信していますので、どうすればそういった方々に楽しんで購読して頂けるのか、まずはいろいろ試しながら形にしていこうと考えています。

――なるほど。大手電子書店と比類する売上というのは確かに注目すべきお話しですね。一方で、単なる電子化ではなく動画やインタラクティブな作品を加えて行こうという発想はどこから出てきたのでしょう?

細野:ブレストの段階から「デジタルじゃないとできないことをやってみよう」というアイディアは出ていたんです。であれば、まずは全部やってみようと。

――古い言葉ですが「マルチメディア」って、しかしなかなか売上に直接結びつかないという事例を私たちも幾つも見てきましたが……。

細野:そうですね。ただ、単なる電子化であればあんまり意味は無い。それなら紙の雑誌を創刊した方が良い、というのが私たちの考えなんです。雑誌単体で収益が確保できるバランスを探りながら、いま2号目を作っているところですね。いまはまだチャレンジの段階ではあります。

 


©SHUEISHA Inc. All rights reserved.

 

例えば、荒木飛呂彦先生の料理番組風動画はたいへん好評で、「有料パス購入のきっかけになった」というアンケート結果も出ています。先生のトークが楽しめるだけでなく、料理もお上手なので、私たちもびっくりしたんですよ(笑)。

――先ほどニコニコ動画を楽しむ人たちに向けて、というお話しもありましたが、動画から伝わってくる「ゆるさ」も確かにそこに通じるものを感じました。とはいえ、撮り下ろし、インタラクティブコンテンツには、これまでのマンガ編集とは異なるスキルも求められそうにも思えます。どういう体制で取り組んでいるのでしょうか?

細野:「企画室」という編集部的な組織があり、週刊少年ジャンプ編集部、デジタル事業部、ライツ事業部などからのメンバーの混成チームになっています。また、「ジャンプRecommend」というラベルが付いた作品のように、ジャンプ以外の編集部から持ち込まれた作品や企画も扱っています。ジャンプだけど、少女マンガやファッション誌からの提案もあって、ユニークな誌面になっています。

  • シュプール
  • シュプール

©SHUEISHA Inc. All rights reserved.

 

わたし自身もそうですが、みな兼任でタイトなスケジュールの中での取り組みでしたので、たしかに結構バタバタしました(笑)。普段の連載を抱えている先生方も追加のお仕事に更に作業が加わるので、大変だったのではないかと思います。

――『LADY COOL』のようなストーリー分岐があるような作品だと尚更ですよね。

  • LADY COOL
  • LADY COOL

©許斐剛/集英社

 

細野:そうですね。ストーリー分岐のある作品というアイディアは、これまでも何度か出ては、「でもそんな事をできる媒体も無いし、頼める先生ってなかなか居ない」と諦めていたのが実情でした。でも、今回ジャンプLIVEの創刊にあたって、許斐先生の方から「ぜひやってみたい」と仰って頂けて。『東京喰種 トーキョーグール [JACK]』の石田先生も、当初はゲスト的に数ページ、という予定だったのですが、325ページの大作を描き上げて頂けたりしました。

  • 東京喰種 トーキョーグール [JACK]
  • 東京喰種 トーキョーグール [JACK]

©石田スイ/集英社

 

この作品は石田先生自身がWebでマンガを描いていた経験もあり、スマホならではの見せ方をしている点にも注目して頂ければと思います。また、ONE先生のWebマンガが原作、『アイシールド21』の村田雄介先生が作画の『ワンパンマン』(となりのヤングジャンプ連載)の出張版も、Web発ならではの作品です。

  • ワンパンマン
  • ワンパンマン

©ONE・村田雄介/集英社

 

私たち自身、企画段階ではジャンプLIVEがどういうものになるのか、明確なイメージを持っていたわけではありません。けれども、少しずつ形が見えてくる中で、著者の先生がたの方から、「そういう媒体なら、こういう事をやってみたい」といろいろな提案を頂くことができたのは嬉しかったですね。

――従来通りの「マンガを描く」という部分以外にも、先生方にはクリエイティブのアイディアがあって、新しい媒体がそれを刺激した、ということかも知れませんね。

細野:そうかもしれません。既に『東京喰種 トーキョーグール [JACK]』はデジタル版コミックスが発売中で、12月4日には『エルドライブ【ēlDLIVE】』と『LADY COOL』の紙の単行本が発売になります。今後は、例えば紙の単行本ではページ数が足りないような作品は電子書籍だけで発売するということも考えています。デジタルでの収益化のチャンスが拡がるという面もあると思います。

 

「創刊号を越える」2号目は12月に配信

――いわゆる出版不況、雑誌不況と呼ばれる中で、今回のジャンプの取り組みには注目が集まっています。

細野:ジャンプは全体で見たときのような右肩下がりの状況ではないんです。だからこそ、いまこのようなチャレンジをして、デジタル雑誌の可能性を探って、これからの姿を創り出して、新しい才能――もうそれは従来のマンガの形式に囚われず、動画や歌なども含めて――を発掘していきたいと思っています。

ジャンプ次世代マンガ賞

©SHUEISHA Inc. All rights reserved.

 

――なるほど。最後に2号、それ以降に向けてどのような展開を予定されているか教えてください。

細野:来年のどこか、までは試行錯誤を続けて、そこからは軌道に乗せていきたいと考えています。この12月に配信予定の2号では、また動画である意味「創刊号を越える」企画が進行中ですので、そこにも注目して頂ければと思います。創刊号は読み切り中心でしたが、ご好評も頂きましたので、2号以降は連載も増やす予定です。『LADY COOL』『東京喰種 トーキョーグール』『ワンパンマン』のような、デジタルならではの作品の登場にも期待してください。

――わかりました。本日はありがとうございました。

 

「ジャンプLIVE」Webサイト
「ジャンプLIVE」アプリ(iOS)
「ジャンプLIVE」アプリ(Google play)

 

■「まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍」のバックナンバーはコチラ
■「まつもとあつしの電子書籍最前線」のバックナンバーはコチラ