【第11回】2014年、電子書籍はどうなる?

2014/1/31

 まつもとあつしです。ダ・ヴィンチニュース(当時はダ・ヴィンチ電子ナビ)では2011年の9月から電子書籍についての連載をはじめました。その年はiPadが登場し、日本でも電子書籍元年がいよいよ始まるかと、一気に注目が集まりましたが、残念ながらわたしたち読者にとっては実質的な変化はあまり無い年でした。しかし、2012年には各社が様々な電子書籍サービスや電子書店をスタート。特に年末のキンドル日本語版の開始は大きなインパクトがありました。今回は2013年の記事を振り返り、現状もアップデートしつつ、2014年の予想もしてみたいと思います。


本の生まれ方・届け方に変化が

 キンドル日本版ストアのオープンで、本格的な電子書籍時代が期待されました。電気店の電子書籍コーナーにも人だかりができ、端末は品薄の状態がしばらく続いたのも印象的でした。しかし、いざ電子書店にアクセスしても読みたい本が電子化されておらずがっかりした人も少なくなかったはずです。

 2月に取材したインプレスホールディングスさんで指摘されたのは、出版社が本を電子化するにあたって、著者に改めて許諾を取らなければならないという課題でした。これまで出版社が持つ権利(出版権)には基本的に電子書籍が含まれておらず、現在もこの権利をどのように改定するか議論が続いています。

【第1回】「電子書籍って読みたい本がなかなか見つからないのはどうして?」 ――インプレスグループの全方位戦略

 このインタビューでは、「日本語の縦書きにも対応し、電子化を推し進める」と期待が高かった、電子書籍フォーマット「EPUB3」が必ずしも完全・万能ではなく、著者からの許諾が得られても電子化の作業に時間が掛かってしまっているという事情も明らかになりました。

 長い歴史を持つ紙の本に対して、生まれてまもない電子書籍は、まだよちよち歩きといったところでしょうか。素早くタイムリーに電子書籍を届けるにはどうすれば良いか、各社のチャレンジが続いています。インプレスさんの場合は、紙の本に比べてページ数を減らしたimpress QuickBooks®という電子書籍専用レーベルを立ち上げ、逆に投入タイトル数を増やす戦略を採っています。

<インプレス北川雅洋さんに改めて聞きました>

――impress QuickBooks®についてお話を聞いたのが昨年の2月でした。その後の刊行状況や売れ行きを教えてください。

北川:精力的にスマートデバイス向け書き下ろし書籍コンテンツ制作を続けています。2013年に118タイトルを刊行し、現在、全170タイトルに達しています。その中には1日あたり1000ダウンロードを記録するタイトルも出てきます。

  • 『山田真哉の世界一受けたい簿記3級の授業』(山田真哉)
  • 『カール教授が女子高生にハーバードのビジネス理論を説明してみた』
  • 『関谷英里子の交渉で使えるビジネス英語 初級編』(関谷英里子)

現在、impress QuickBooks®で人気なのが、ビジネス入門書「どうぶつ教室」シリーズ。山田真哉、平野敦士カール、関谷英里子らが著者として名を連ねている。

――お話しされていたように紙の書籍レーベルを遙かに超える刊行ペースですね。今年はどんな展開を予定していますか?

北川:まだまだスマートデバイス向け書き下ろし電子書籍を出版している出版社は少数派ですが、将来は電子書籍の主流になると考えています。紙の書籍を電子化したものとスマホ向けに作られた電子書籍は異なるはずです。まずは、他の版元さんにも呼びかけて「仲間」を増やしていこうと思います。そうすることで売り場作りができ、プロモーションの機会が増えるからです。
一例として、アマゾンさんが「マイクロコンテンツ」という専用コーナーを作ってくれています。そういう形で露出を増やして新しい読者層の市場を開拓していければと思っています!

 このような電子に特化したコンパクトな商品は「マイクロコンテンツ」と呼ばれることも。紙の本として書店で販売するには、ある程度のボリュームが求められますが、100円程度で販売されることもあり、スマホやタブレットで他のコンテンツと並行して楽しまれる電子書籍では、求められるテーマやボリューム感が異なるというわけです。

 昨年3月にグループ9社と統合したKADOKAWAも30分前後で読むことができ、1冊100円からと安価な「ミニッツブック」という新レーベルをスタートしています。各社が積極的に作品を投入する中、今後、私たちもこういった電子書籍専用コンテンツを楽しむ機会が増えていくことでしょう。

 書き手の側からも、こうした新しいコンテンツの形に着目した動きが出てきています。

 STORYS.JPという書き手の個人的な物語を綴る新しいサービスも取材しました。従来ブログで行われてきたような活動ですが、Facebookとも連動し、書き手と読み手を結びつけながらモチベーションを高めていく仕組みが新鮮です。

【第7回】じぶん語りが本になる?――STORYS.JPが描く新しいCGMの形

 ここに綴られた物語が本になる(『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』)例も。

 絶版となったマンガをKDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)という仕組みで個人出版し、思い切った価格設定で改めてトータル5万部という売上が生まれた鈴木みそさんの取り組みは非常に象徴的でした。

【第3回】「セルフパブリッシング」って儲かるの?――『限界集落(ギリギリ)温泉』の著者・鈴木みそさんに聞いてみた!

 鈴木みそさんは、業界の現場を取材してマンガで表現することを得意とされています。取材時にチラッと設定資料を見せて頂いた新作『ナナのリテラシー』には電子書籍についてのエピソードも。単行本が先日発売になりました。

<鈴木みそさんに改めて聞きました>

――進撃の巨人など大型タイトルが並ぶキンドル年間ランキングで「限界集落(ギリギリ)温泉」は7位に入りました。販売部数はどのくらいだったのでしょう?
鈴木:全9巻のトータル部数が昨年末で58,706部でした。第1巻は21,410部です。利益は1千万円を超えています。
――電子書籍で利益が1千万とはすごいですね!新作『ナナのリテラシー』では電子書籍もテーマということですが、どんな内容なのでしょう?

ナナのリテラシー

ナナのリテラシー』(KADOKAWA エンターブレイン)

鈴木:売れない漫画家「鈴木みそ吉」が、出版不況の中、出版社という船を離れて個人出版に活路を見出だそうとするという内容です。その挑戦を天才ITコンサルタント山田仁五郎と、女子高生許斐ナナが業界の内部をえぐりながら支え、発展させていくというストーリーです。
出版社に未来はない。
編集者は作家はどうするべきか。
そんなシビアな内容に真っ向から取り組んだ作品なので、発行元(KADOKAWA エンターブレイン)としても冒険だったと思います。こんな本よく出たなあと、読み返してもドキドキします(笑)。

――まさにご自身の体験が元になっていますね。14年は電子書籍の世界はどうなっていくと思いますか?

鈴木:アマゾンやアップルのような外資系が取り組みにくい、いわゆる「エロ」方面に日本勢の競争力が発揮されるのではないでしょうか(笑)。「艦これ」ブームもあり個人的にはDMMさんに注目しています。そして、作家の個人出版がどのくらい出てくるのかも注目です。僕も新しい読者を開拓しつつ、売上が続くように電子作品を出し続けていきます!

 マンガの世界では電子書籍対応で積極的な取り組みが続きました。単行本に留まらず、マンガ誌の電子化が相次いだのも2013年を象徴する動きだったと言えるでしょう。本連載でも昨年後半はその動きを断続的に取材しています。

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【第10回】ソーシャルゲームのDeNAが無料マンガに取り組む理由

 IT企業のDeNAが完全無料のマンガ誌を創刊、他誌からのスピンオフや再掲載も行うという取り組みは、マンガ誌のあり方を根本から変えるものと言えそうです。マンガボックスは取材時に挙げられていたアプリの100万ダウンロードという目標は軽々と突破し、200万を超えて成長を続けています。

<マンガボックス川崎渉さんに改めて聞きました>

――200万ダウンロードを突破しての率直な感想は?タイミングは予想どおりでしたか?

川崎:100万ダウンロードの突破までが約3週間。CMに対するお客様の反応も良好だったため、200万ダウンロードも早晩実現するとは思っていましたが、年末年始はその予想を上回るペースで愛読者の方が増え、正直少し驚いています。

マンガボックスのCM動画

――その要因はどこに?

川崎:「質の高い作品」をそろえることと、それを「無料で読める」ことを両立できた点をご支持いただけたのだと思います。

――2014年、マンガボックスをどのように成長させていきたいですか?

川崎:マンガボックスはまだ始まったばかりのサービスですが、国内外の更に多くの読者の方に、質の高い、様々な作家の描くマンガを届けるプラットフォームとして成長させたいと思います。

 これらのサービスがその収益化をどう図っていくのか今年の動きにも注目していきたいと考えています。