【第11回】2014年、電子書籍はどうなる?

更新日:2014/1/31

変わる本の売り方、そして書店はどうなる?

 電子書籍が普及していく中で、価格設定やキャンペーンにも注目が集まるようになりました。電子書店それぞれの品揃えは大きく違わない中で、どの作品を価格も含めどのように打ちだし、選んでもらうか、各社が腕を競うことになったのです。

 KADOKAWAグループの電子書店BOOK☆WALKERを取材したのも、書店の「中の人」が日々どのような考えのもと、その取り組みを続けているのか実際のところを知りたかったというのが大きな理由です。

【第2回】取り扱い点数が少なくても魅力的な電子書店とは? ――BOOK☆WALKERの中の人に聞いてみた!

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 取材時には12年末の30分限定で108タイトルを100円にしたセールについてのお話を伺えたのですが、その後グループ統合の際には、1万タイトル以上を1日限定で半額にするという規模の大きな取り組みが注目を集めました。

 アマゾンや楽天など大手が出揃い、2011年前後に相次いでオープンした電子書店が、整理統合の時代を迎えるという予想もできます。書店の品揃えや機能では大きな差別化が難しい中、こういったユニークなキャンペーンを断続的に行えるか、またソーシャルメディアなどを通じた顧客との接点を活かし続けることができるかといった点が生き残りを分けると言えるでしょう。

 デジタルの世界がこのような変化を迎える一方で、リアル書店はどうなっていくのでしょうか?最近「本屋さんの逆襲」という言葉を目にするようになりました。ネット通販そして電子書籍の普及によって、街の本屋さんの存在意義が問われるようになり、実際閉店も相次いでいますが、一方で本屋さんというリアルな場所でなければ生まれない本との出会いの価値が再評価されているのではないかと感じています。

 日本最大級の書店チェーンであり、電子書店Kinnopyも展開する紀伊國屋書店さんで伺ったお話にはそのための幾つかのヒントが含まれています。

【第4回】リアル書店は生き残りのためにどんな戦略を描いている?  ―国内最大級の紀伊國屋書店に聞いてみた

 電子書籍サービスと言えば、専用端末をイメージする方も多いと思いますが、紀伊國屋書店ではKinnopy用端末を用意していません。提携するSONYのリーダーやスマホ・タブレット用のアプリで本を読むことが前提になっています。

 米国では大手チェーンのバーンズアンドノーブルが、電子書籍事業の採算が取れずに苦しんでいます。その足を引っ張る大きな要因となっているのが専用端末の存在とも言われます。技術の進化が早く、あっという間に現行機種が陳腐化する難しいビジネスに敢えて参入しないという紀伊國屋の判断は、これまでのところ間違っていないと言えるはずです。

 海外にも店舗網を持つ紀伊國屋書店のような大手に対し、規模の小さな書店は専門性や独自色を打ち出せるかどうかが鍵を握ることになります。電子書店での大型キャンペーンや、購買履歴による推奨では出会うことができない本が、「そこに行けば見つかる(かも知れない)」という期待・信頼を得られるかどうかが大切になってくるはずです。

 わたしは昨年末アメリカに3週間ほど滞在し、現地の本屋さんにも足を運びましたが、本そのものを売っているというよりも、サプリメントを売るように気分に応じたコンテンツを提案しているような雰囲気のお店に人気が集まっているように感じました。ネット通販が日本以上に普及しているアメリカにおいて、物理的には適わない品揃えとは別の軸で存在感を打ち出しているという印象です。

 ニューヨークでは現地で出版エージェントとして活動されている大原ケイさんにお話を伺いました。

【第9回】電子書籍の本場アメリカの実際をNYで聞いてみた

 日本ではアマゾンの一人勝ちのように語られることも多い電子書籍ですが、アメリカではここのところシェアを落としているというお話や、あえてアマゾンを売り場に選ばず、独自性の強い、価格も高めの書籍をプロデュースする出版社が元気、といった興味深いお話を聞くことができました。読者人口はそれほど違わないと言われる日本でも今後同じような事例が生まれてくるのではないでしょうか?

 フォーマットや大手サービスが出揃ったことで、本当の変化はこれから起こるという見方もできます。この連載でも引き続き、新しい取り組みを取材し、私たち読者にどんな影響があるのかを探っていきたいと考えています。

文=まつもとあつし