「この時代を生き抜くには」内田 樹×名越康文×橋口いくよ 勝手に開催!国づくり緊急サミット

更新日:2014/3/10

学ぼうとする力だけが個人を、日本を救う

名越康文

内田 今日本のビジネスマンは、海外に生産拠点を移すことにちょっとうんざりしているんだと思う。できることなら国内で操業したい。言葉も通じるし、インフラも整備されているし、労働者のモラルも高いから。唯一のネックは人件費なんだよ。日本の若者の人件費が中国やベトナムなみに安くなれば、海外を転々とする必要なんかない。だから、どうやって人件費を下げるか、最低賃金制を廃止するか、それを考えている。時給200円くらいまで切り下げれば、日本企業の国際競争力は一気に跳ね上がるから。「愚民化」政策はそのためのものなんだよ。人件費下げて、法人税率下げて、原発稼働させれば国際競争に勝てると信じているから。そんなの短期的なことなんだけどね。

名越 10年ぐらい前、最初に内田先生とお会いした時、知性や教養に関してはこれから完全に二極化が進むでしょうねって話をお互いしましたよね。本当にその通りになってしまった。

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内田 しかも、すごく早いペースでね。今、RU 11(リサーチ・ユニバーシティ・イレブン)っていうプロジェクトがあるんだけれど、旧7帝大と、早稲田・慶應・東工大・筑波大の11校だけを研究拠点校とエリート養成機関にして、あとの大学はもうあってもなくてもいい、っていう考え方が露骨に出ていると思う。知的イノベーションやエリート教育はそこでやればいい。あとの「消耗材」的な人材育成はそれ以下の教育機関に丸投げする。だって、サラリーマンやOLには知性も教養も要らないと思っているんだから。上司の命令がわかる程度の英語力とエクセルとパワーポイントが使えるコンピューター・リテラシーと残業できる体力があればいい、と。

名越 上からはそうなってきているけれど、だからこそ我々はその状況の中で、どういう風にやっていくかということが大事になってくるんです。僕は授業や講演などで、みなさんに「ちゃんと勉強しいや」っていつも言ってるんですよ。学ぼうとする力だけが、反知性主義に抗する力になりますよって意味がこもってるんです。

内田 だから『異邦人』で手を挙げなかった学生たちを叱ったの。むずかしい本を読むことが恥ずかしいという空気にどっぷり浸かって、お互いの知的成長を妨げ合っているけれど、これはそういうふうに思うように操作されている結果なんだぜ、って。君たちがバカである方が都合がいいと思っている人たちがそう仕向けているんだ。君たちは自主的に反知性主義的になっているんじゃなくて、そういうふうに操作されているんだ。国策の犠牲者なんだ。君たちは企業の「食い物」にされているんだって言ったら、みんなかなり青ざめてたね。

橋口 そうやって言われて、私の年代ですら今、やっとハッとわかることってあると思うんですよ。私たちが子供の頃から、大人が、ほんとにずっと「勉強だけはしなさい」って言っていたけど、その言葉には潜在的にそういう意味があったのかもしれない。今、お二人がおっしゃったようなことを、当時の大人達が言葉にしないまでも肌で感じていたところはきっとありましたよね。ああ、大人達! ごめんなさい。勉強しなさいって言葉を今こそちゃんと信じて、大事にしなくちゃいけないですね。と言いながら、このコーナー、次回もぜひと言いたいところですが、今回が最終回です。

名越 はい。

内田 なんだか、ずっと続くような気がしていたのに。

橋口 私、このコーナーって本当に勉強になるとずっと思いながら原稿をまとめていました。はからずも、最後にこういったお話になりながらも終わってしまう……というのがこの時代の何を表現しているのか、しみじみ味わいながらのさよならです。

名越 みんな、勉強しいや。

内田 勉強してください。

橋口 それを伝え続けたいのですが、お時間となりました。どんな時も、勉強への欲望という命綱をたくさんの日本人が持ち続けていられますように。それが日本の希望です。

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内田 樹
うちだ・たつる●1950年東京都生まれ。思想家。神戸女学院大学名誉教授。凱風館館長。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。2007年『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第6回小林秀雄賞を、10年『日本辺境論』(新潮新書)で新書大賞2010を受賞。近著に『一神教と国家』 (中田 考との共著 集英社新書)、『内田樹による内田樹』(140B)、『街場の憂国論』(晶文社)など。自身が運営するブログは人気サイトでもある。「内田樹の研究室」

名越康文
なこし・やすふみ●1960年奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。臨床に携わる一方で、テレビ・コメンテーター、雑誌連載、映画評論、マンガ分析などさまざまなメディアで幅広く活躍中。近著に『悩み脱出の力を鍛える! 名越康文のシネマ・セラピー』(KADOKAWA エンターブレイン)、『驚く力』(夜間飛行)、『40歳からの人生を変える心の荷物を手放す技術』(藤井誠二との共著 牧野出版)など。毎月第1・第3月曜日に「夜間飛行」「夜間飛行」名越康文メルマガも配信中。

橋口いくよ
はしぐち・いくよ●1974年鹿児島県生まれ。作家。著書に『愛の種。』(幻冬舎文庫)、『原宿ガール』(KADOKAWA メディアファクトリー)、『小説 僕の初恋をキミに捧ぐ』(小学館文庫)、『だれが産むか』(幻冬舎)、『小説 少年ハリウッド』(小学館文庫)、『おひとりさまで! アロハ萌え』(講談社文庫)など。現在、アニメ×小説×リアルの「少年ハリウッド」プロジェクト(原案『原宿ガール』)も展開中。
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