官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第38回】有允ひろみ『MIRROR』

更新日:2014/3/12

有允ひろみ『MIRROR』

役員秘書の仕事で奔走する七瀬は、自宅のいたるところに置いた鏡の前で自慰行為をするのが趣味。職場の年下男子・岩崎から告白されたものの、過去の苦い恋を思い出して積極的になれない。ある休日、ひょんなことから岩崎を自宅に招きいれることになった七瀬だが、直前までしていたのは趣味の自慰行為で――!? 第1回フルール新人賞ルージュ部門佳作受賞作家の、上品なエロティック短編。

 

 リビングの壁際にあるアンティークの鏡の中。裸の私が、こちらをじっと見つめている。ちょっと大きめの胸。割と引き締まったウエスト。一年中日焼けしない肌が、シェードランプの灯りに照らされ、琥珀色に浮かび上がる。

 一人きりで過ごす週末の夜。私は、鏡に向かって大きく脚を広げる。そして、その真ん中にある薔薇の芽を、ゆっくりと指先で爪弾き始める。

 鏡の中の私には、羞恥心なんか欠片もない。誰にも明かせない、そんな秘密の時間が、日常を生きる私のお気に入りの時間だ。

 

 市ヶ谷にある本社ビルのエレベーターホールからは、総武線と皇居外堀に沿う並木道を望む事が出来る。春は満開の桜色で、夏には濃緑色に染まるその景色も、秋を迎え、色鮮やかな紅葉のきざしを見せ始めている。そんな景色を愛でる余裕もなく、ホールを左に折れた私は、そのままマホガニー色に統一された役員エリアへと足を進める。六つある役員室手前の扉のない大部屋。そこが、私の昼間の戦いの場だ。

「多岐川君、これ」

 役員である東常務が、私に向かって分厚い書類を差し出す。たくさんの付箋が貼られたその書類は、来期着工予定のグアムゴルフコースの事業計画書だ。発注元は国内屈指のホテルマネージメント会社。現在営業中のリゾートホテル横にある何もない平地が、数年後には鮮やかなグリーンへと生まれ変わる。

 東常務はそのプロジェクトの責任者であり、常務の専任秘書である私もまた、自然とプロジェクトに大きく関わりを持つ立場にある。

「事業部の岩崎君が後で取りに来るから、渡しといて。あと、説明とかもよろしく」

 ひらひらと揺れる常務の左手が、社長室のドアの向こうへと消える。社長との打ち合わせがこれから約1時間ほど。昼には取引先との会食があり、午後からは、国内出張に出掛ける予定だ。相変わらず飄々としている東常務だが、ここ数カ月まともに執務室のデスクに座る暇もないほど忙しくしている。

「失礼します。海外事業部の岩崎ですが、東常務はいらっしゃいますか?」

 午後からの出張に備えて書類の最終確認をしていると、秘書室の入口から男性の快活な声が聞こえて来た。

「東常務は只今離席中です。書類でしたら、こちらで預かっておりますので」

 声をかけると、ぺこりと頭を下げ、にこやかにこちらに向かって近づいてくる。半年前に海外事業部へ異動となった、岩崎拓斗という入社三年目になる社員だ。異動後、しばらくは先輩社員のサポートに回っていた彼だったが、今回のプロジェクトを機に、部署の主力メンバーとして活躍の場を広げることが決まっている。

 

2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊

一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。

9月13日創刊 電子版も同時発売
  • 欲ばりな首すじ
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